第59話 物量防空戦闘
第五艦隊第一群からF6Fヘルキャット戦闘機が三六機にSBDドーントレス急降下爆撃機が五四機、それにTBFアベンジャー雷撃機が五七機。
第二群と第三群からそれぞれF6Fが三六機にSBDが二七機、それにTBFが四二機。
九隻の空母から合わせて三五七機という、合衆国海軍始まって以来の一大攻撃隊は日本艦隊と同様、戦闘機と急降下爆撃機、それに雷撃機といった機種ごとに編隊を組み上げて進撃していた。
米海軍の母艦航空隊は戦争が始まった頃は練度が低く、日本のそれとは違い大編隊を組むことが出来なかった。
だが、ウェーク島沖海戦や第一次ミッドウェー海戦に敗北して以降、連日の猛訓練によって現在ではそれが可能となるまでにその技量を向上させていた。
機材のほうも急降下爆撃機こそSBDのままだが、雷撃機はTBDデバステーターからTBFに更新され、F6Fに至っては今回が初陣というピカピカの最新鋭戦闘機だ。
その新しくなった艦上機群は、だがしかし日本艦隊をその視界に収めないうちから多数の戦闘機に襲われた。
この時、日本の第一艦隊から第四艦隊までの一八隻の空母にはそのいずれにも二個中隊の直掩戦闘機が用意されていた。
このうちミッドウェー基地航空隊からの攻撃の矢面に立つ位置にある第三艦隊を除く第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊の二八個中隊三三六機からなる紫電はそのすべてが米攻撃隊の迎撃にあたった。
まず、航空管制指揮官から指示を受けた上空警戒中の一四個中隊一六八機の紫電が翼を翻して東へと向かう。
同時に即応待機状態にあった一六八機の紫電もまた轟音をとどろかせて飛行甲板を蹴っていく。
米攻撃隊に最初に突っかかっていったのは第二艦隊と第四艦隊の九六機の紫電だった。
これに対し、F6FはSBDやTBFを守るべく日本軍が差し向けた新型戦闘機に立ちはだかる。
母艦を守る直掩隊とは違い、攻撃隊の護衛任務にあたるF6Fの搭乗員はそのいずれもが単機航法も可能な手練れで固められている。
だが、それでも開戦前から入念なトレーニングを積んだベテランはウェーク島沖海戦とそれに続く第一次ミッドウェー海戦でそのほとんどが失われていたから、実戦経験を持つ者はそれほど多くはなかった。
だから、全体の平均技量としては開戦以降から経験を積み重ねた日本の搭乗員のそれには及ばず、彼らは第二艦隊と第四艦隊の紫電を引きつけるのが精一杯だった。
一方、SBDやTBFはF6Fと紫電の死闘を横目にそのまま進撃を続ける。
第二艦隊や第四艦隊の紫電より少し遅れて戦場入りした第一艦隊の七二機の紫電はSBDに目をつける。
四隻の「エセックス」級空母から発進した合わせて一〇八機のSBDは機体同士の間隔を詰めて相互支援を強化、防御機銃を振りかざして身を守ろうとする。
だが、紫電との速度ならびに運動性能の差はあまりにも隔絶しており、しかもSBDのほうは腹に重量物の一〇〇〇ポンド爆弾を抱えている。
動きが鈍くなったSBDの窮状につけ込むかのように紫電は後方や側方から次々に二〇ミリ弾を撃ちかけていく。
七・七ミリ弾や一二・七ミリ弾とは一線を画す威力を持つ二〇ミリ弾は単発の艦上機であれば当たりどころが良ければ一撃でこれを葬る威力を持つ。
一方のSBDからすれば、初撃で例え運良く致命部への被弾を避けたとしてもさらに二撃、三撃と食らえば同じことだった。
初撃で三分の一近くを食われたSBDは、その時点で紫電とほぼ同じ数となる。
一対一の戦いとなればSBDに勝ち目は無い。
生き残ったSBDは半ばラッキーパンチを期待して防御機銃を振り回すものの、そのようなものに絡め取られる紫電は皆無だ。
紫電という自分たちにとって未知の新型戦闘機の襲撃に加え、次々に撃ち墜とされる味方を見て恐慌に陥ったSBDが爆弾を投棄して反転する。
それを見た他のSBDもその多くが腹に抱えた爆弾を切り捨てて遁走するが、一方で進撃を止めない機体も少なくなかった。
紫電はそれら機体を二〇ミリ弾で容赦なく切り刻んでいった。
その頃には緊急発進した一六八機の即応待機組みの紫電も戦場に駆けつけ、こちらは一五六機のTBFに襲いかかる。
腹に一トン近い魚雷を抱え運動性能が極端に低下、そのうえ自分たちよりも数の多い紫電に狙われてはTBFに生存のチャンスは無い。
SBDの惨劇を目にしていたTBFの搭乗員は早々に雷撃を諦め、魚雷を投棄して逃げの一手を打つが、紫電は情け無用とばかりにそれらに食らいつき、次々に平らげていった。
あっさりとSBDやTBFを屠った紫電は、今度はF6Fを相手に優勢に戦いを進める第二艦隊と第四艦隊の紫電に加勢、大きく数を減じていたF6Fに群がる。
一機のF6Fに五機、六機の紫電が取り囲み袋叩きにしていく。
三五七機を数えた米攻撃隊は、だがしかし三三六機の紫電によって日本艦隊を視認する前に撃退された。
生還出来た機体は全体の一割に満たなかった。
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