第56話 変態艦
索敵電探を搭載した天山電偵を惜しげもなく大量投入し、敵に遅れをとることもなくミッドウェー近傍に待ち伏せていた米艦隊の発見に成功。
すかさず第一艦隊司令長官の小沢中将は第一艦隊ならびに第二艦隊、それに第四艦隊の各空母の飛行甲板に待機させていた攻撃隊の発進を命令する。
発見された米艦隊は空母三隻を中心とした機動部隊が三群、それに六隻の戦艦を基幹とした水上打撃部隊が一群。
それらを攻撃するために第一艦隊から紫電七二機に天山一〇八機、第二艦隊と第四艦隊からはそれぞれ紫電四八機に天山五四機の合わせて三八四機が慌ただしく飛行甲板を蹴って東の空へと消えていった。
回避不能の激戦を前に、小沢長官は旗艦「長門」の艦橋で将兵とは別の、一方の主役である艨艟たちに思いを馳せている。
二度目のミッドウェー攻撃に参加した帝国海軍の空母は実に一八隻。
だが、その中で最初から空母として産声を上げたのは「蒼龍」型の四隻と同じく「翔鶴」型の四隻の合わせて八隻だけで、全体の半数にも満たない。
あとの一〇隻は他の艦種を改造したそれだ。
「長門」型と「扶桑」型は戦艦、「千歳」型は元は水上機母艦だったものをそれぞれ空母へと改造したものだ。
特に「扶桑」型の四隻は三六センチ砲搭載戦艦として竣工し、条約失効後には秘密裏に改造して四一センチ砲搭載戦艦となったいわくつきの艦だ。
このことで、同数の戦艦同士が激突したウェーク島沖海戦では自らも傷つきながら、その四一センチ砲の巨弾をもって米戦艦をことごとく海底へと葬った。
そして、それが戦艦としての「扶桑」と「山城」、それに「伊勢」と「日向」の最初で最後の戦いとなった。
ウェーク島沖海戦終了後、「長門」型と「扶桑」型の六隻は被害を受けた上部構造物の修理をするふりをして空母への改造に着手した。
格納庫を二段持ちながらも改造工事が一年半あまりで済んだのは戦前から空母に改造するのための設計がすでに完了していたこと、さらに元が高速戦艦だったので機関や船体にほとんど手を加える必要が無かったことが大きい。
そして、なにより戦争という異常事態が採算度外視の昼夜をわかたぬ三交代制の工事を可能にさせた。
それが驚異的ともいえる短期間で工事を完了させることが出来た要因だろう。
もし、これら改造空母が無ければ、今次作戦における帝国海軍の苦戦は免れなかったはずだし、そもそもとして作戦そのものが立案されることもなかったはずだ。
仮にこれら六隻の空母が存在しない中で戦いを挑んでいたとすれば、逆に米艦隊に押し込まれる一方だったかもしれない。
空母だけではない。
「妙高」型や「高雄」型、それに「最上」型は二〇センチ砲あるいは一五・五センチ砲だった主砲を、そのいずれもが二三センチ砲に換装する工事を行っている。
第一線任務からはずれ、海上護衛総隊に所属する「球磨」型や旧式駆逐艦は主砲や魚雷発射管を降ろすのと引き換えに高角砲や機銃を大量に積み込んだ防空艦として、また「香取」型練習巡洋艦は艦後部の武装を撤去して航空艤装を充実させた航空護衛巡洋艦に生まれ変わっている。
竣工時から大きくその姿を変えていないのは正規空母を除けばあとは新型駆逐艦と潜水艦くらいのものだ。
「どいつもこいつも変態艦ばかりだ。まるで魔改造艦隊だな」
胸中で苦笑しつつ小沢長官は東の空へと意識を向ける。
あと少しすれば遥か東方で友軍攻撃隊が敵艦隊と干戈を交え、そして間もなくその東方から敵の攻撃隊が姿を現すはずだった。
第一艦隊
「長門」(紫電三六、天山一八)
「陸奥」(紫電三六、天山一八)
「伊勢」(紫電三六、天山一八)
「日向」(紫電三六、天山一八)
「山城」(紫電三六、天山一八)
「扶桑」(紫電三六、天山一八)
重巡「足柄」「那智」
駆逐艦「秋月」「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「長波」「巻波」
第二艦隊
「蒼龍」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「飛龍」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「千歳」(紫電二四、天山電偵六)
「千代田」(紫電二四、天山電偵六)
重巡「熊野」「鈴谷」
駆逐艦「照月」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
第三艦隊
「翔鶴」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「瑞鶴」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「神鶴」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「天鶴」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
重巡「妙高」「羽黒」
駆逐艦「涼月」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」
第四艦隊
「雲龍」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「白龍」(紫電四八、天山二七、天山電偵三)
「瑞穂」(紫電二四、天山電偵六)
「日進」(紫電二四、天山電偵六)
重巡「最上」「三隈」
駆逐艦「初月」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
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