第53話 新戦力
第一艦隊と第二艦隊、それに第三艦隊と第四艦隊はミッドウェー近傍海域に設定された攻撃発起点に到達すると同時に行動を開始した。
第一艦隊は第二艦隊と第三艦隊、それに第四艦隊の統括指揮を任された小沢中将の直率部隊で、「長門」と「陸奥」、それに「伊勢」と「日向」ならびに「山城」と「扶桑」の六隻を基幹としている。
第二艦隊は「蒼龍」と「飛龍」ならびに小型空母の「千歳」と「千代田」の四隻の空母からなる機動部隊で、中将に昇進して間のない山口中将が司令長官としての初陣に臨む。
第三艦隊は四隻の「翔鶴」型を中心とする装甲空母部隊であり、開戦以来桑原中将が一貫してその指揮を執っている。
第四艦隊は新しく編成された空母を中核とする部隊で、「雲龍」と「白龍」、それに小型空母の「瑞穂」と「日進」の四隻を主力とし、帝国海軍随一の猛将として名高い角田中将がこれを率いる。
また、それらに搭載される艦上機も大きく様変わりしている。
開戦時に当時の太平洋艦隊撃滅に大きく貢献した零戦や九九艦爆、それに九七艦攻の姿はすでに無い。
このうち、新しい艦上戦闘機はいわくつきだ。
一二試艦上戦闘機の発動機換装問題で手一杯となってしまった大手メーカーに代わり、水上機の設計開発を得意とするメーカーがこれをつくったのだ。
このメーカーは一五試水上戦闘機の担当から外れ、代わりに大手メーカーがつくるはずだった一四試局地戦闘機の開発を請け負うことになったから、最初から気合の入り方が違った。
ぶっちゃけ、水上機と陸上機ではさばける機体の数、つまりは儲けが全然違うのだ。
その機体はインターセプターとして必要な高速と上昇力を確保するために大排気量発動機の火星を採用、さらに新開発の自動空戦フラップを装備した。
完成した海軍初の局地戦闘機には三式局地戦闘機という名称とは別に「紫電」という二つ名が与えられる。
その紫電は高翼面荷重だったのにもかかわらず、意外に低速域の安定性や失速特性が良好だったため、局地戦闘機であるのにもかかわらず艦上戦闘機としての運用も可能ではないかとテスト飛行開始当初から目されていた。
そこで、実験機に着艦に必要とされる補強を施したうえでフックを取り付け、飛行甲板の広い「翔鶴」に着艦させてみた。
そうしたところ、「翔鶴」型はもとより小型の「千歳」型でも十分に運用できることが分かった。
そこで、一七試艦上戦闘機が開発されるまでのつなぎとして零戦に代わって空母に搭載されることが急遽決定された。
その紫電と同じ火星発動機を搭載するのが新鋭艦上攻撃機の「天山」だ。
被弾に弱かった九七艦攻の弱点を補うべく、航続距離の要件を緩和して防弾装備を充実させている。
また、爆弾搭載量もこれまでの九六艦攻や九七艦攻よりも多い一〇〇〇キロとなり、新型の投下器を装備することでこれまで以上に柔軟な運用が可能となった。
さらに、索敵電探を搭載したタイプの天山は新たに艦上偵察機「天山電偵」として艦隊の新しい目になることが期待されている。
戦闘機や攻撃機が新型になる一方で急降下爆撃機は母艦航空隊からその姿を消している。
これはウェーク島沖海戦やミッドウェー海戦で九九艦爆の被害があまりにも大きかったことによるものだ。
ダイブブレーキを利かせて低速降下、敵艦数百メートル上空まで肉薄する急降下爆撃は対空能力が向上の一途をたどる米艦隊に対して早晩通用しなくなるのは明白だから、それに先駆けての対処だった。
いずれにせよ、これら新戦力が揃うのを待って連合艦隊は太平洋艦隊を撃滅すべく抜錨した。
そして、太平洋艦隊もまたこのミッドウェー近傍海域で展開を終え、連合艦隊を待ち構えている。
時に昭和一八年九月。
日米最大の、そして最後の決戦の火蓋が切られようとしていた。
<紫電二一型>
海軍御用達の大手メーカーが開発するはずだった一四試局地戦闘機は、だがしかし一二試艦上戦闘機の発動機変更によって設計陣に余裕が無くなったため、一五試水上戦闘機を担当する水上機の設計製造が得意なメーカーにこれを変更した。
発動機は大排気量の火星とし、紫電が搭載する新型のそれは一八五〇馬力と零戦が搭載する金星を四割あまり上回る。
最高時速は陸上タイプの一一型で六二五キロ、尾部を強化し着艦フックを装備した艦上機タイプの二一型は重量増と空気抵抗の増大で六一〇キロに低下している。
それでも、米国の新型戦闘機であるF6Fに対しては一トン以上も軽く、最高速度こそ同等なものの、加速や上昇力は紫電二一型が勝り、さらに新装備の自動空戦フラップによって旋回格闘性能はF6Fのそれを大きく上回っている。
武装も長銃身の二号機銃が四丁と強力で、装弾数は一丁あたり二五〇発。
火星の大トルクによってもたらされる余裕によって爆弾であれば二五番なら二発、六番であれば八発搭載できる。
<天山>
傑作と言われた九七式艦上攻撃機の後継で、大馬力の火星発動機を採用したことで最高時速は四三〇キロに向上している。
また、紫電と同じ発動機を搭載することで整備や補給が効率的かつ容易となった。
兵装については新型の投下器を装備し、弾頭を強化した九一式航空魚雷(一〇〇〇キロ)なら一本、二五番なら四発、六番なら両翼下のハードポイントを合わせて一六発搭載できる。
電探搭載タイプは三座ではなく複座で、前席と後席の間に表示装置をはじめとした電探関連の機器が置かれ、後席の航法員が操作を行う。
なので、航法員はやたらと忙しい。
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