第46話 追撃戦と撤退戦
空母三隻撃沈、一隻撃破の大戦果を挙げてなお第二艦隊の小沢長官は戦果拡大に余念が無かった。
大損害を被ったとはいえ、いまだ戦力を有しているミッドウェー基地への対応は引き続き第三艦隊にこれを担当させることにした。
米艦上機からの集中攻撃を受けた第三艦隊は、その基幹戦力である四隻の空母のそのいずれもが大なり小なりの損害を被っていた。
中でも「瑞鶴」は前部エレベーターを一〇〇〇ポンド爆弾によって貫通され、格納庫内がめちゃくちゃにされてしまっている。
当然のことながら艦上機の運用もまた不可能であり、所属の機体は他の空母に分散収容したうえで現在は後方に下がらせていた。
一方、被弾してなお艦上機の離発着が可能な「翔鶴」と、至近弾によって小破した「瑞穂」と「日進」の二隻はいまだ艦上機の離発着能力を維持しており戦闘継続が可能だった。
そしてこれら三隻の空母によってミッドウェー基地にさらなる痛撃を加えれば、弱体化した同基地の機能を奪うことは十分に可能だった。
そのことで、小沢長官は米艦隊の攻撃に専念することが出来た。
まず、第一次攻撃から帰還してきた艦上機の中で即時使用可能な機体でもって第二次攻撃隊を編成させた。
それぞれ七二機あった九九艦爆ならびに九七艦攻は被弾損傷が相次ぎ、即時再使用が可能なものは九九艦爆が二一機に九七艦攻が二五機の合わせて四六機にしか過ぎなかった。
これは当初戦力の三分の一以下でしかない。
いかに米機動部隊の対空砲火がすさまじかったのかがこの一件からも分かる。
そのことで、少数機の機体で敵艦隊を攻撃しても損害ばかり大きくて戦果は僅少になるのではないかと危惧を口にする参謀もいたが、それでも小沢長官の追撃への意志は揺るがず、第二次攻撃隊を送りだした。
これら第二次攻撃隊には四六機の九九艦爆ならびに九七艦攻とは別に、各空母から一個小隊合わせて一二機の零戦を念のために随伴させている。
一抹の不安を抱えての出撃となった第二次攻撃隊だが、一方で米機動部隊のほうもまたその多くの艦が第一次攻撃隊によって大きく傷つき、対空火器の数を著しく減じていた。
それゆえ、第二次攻撃隊は第一次攻撃隊ほどには大きな損害を出すこともなく、米巡洋艦や米駆逐艦にさらに追い打ちをかけることができ、さらに這うように戦線離脱を図っていた空母「サラトガ」にとどめを差すこともかなった。
結局、この日の二度の航空攻撃で第一六任務部隊と第一七任務部隊はすべての空母を撃沈され、八隻あった巡洋艦のうち二隻が沈没、六隻が中破から大破の損害を受けた。
生き残った巡洋艦の中でそのうちの二隻は自力航行が出来ず、現在は僚艦に曳航されている。
駆逐艦も戦いが始まるまでは二四隻あったものが今では二一隻しかなく、その中で無傷なものはわずかに六隻のみで、残る一五隻は航行になんらかの支障をきたしていた。
そこに第二艦隊と第三艦隊から抽出された水上打撃部隊が追撃をかける。
主力となるのは第六戦隊の「妙高」と「羽黒」、それに第七戦隊の「足柄」と「那智」の四隻の重巡。
さらに「朝雲」と「山雲」、それに「夏雲」や「峰雲」といった四隻の「朝潮」型駆逐艦と「黒潮」と「親潮」、それに「早潮」や「夏潮」といった同じく四隻の「陽炎」型駆逐艦も近侍として四隻の重巡に続く。
数の上では米側が二倍以上も優越していたが、しかしそのほとんどが日本側艦上機による攻撃で深刻なダメージを被っており、まともに動けるのは僚艦を曳航している重巡「ノーザンプトン」と「チェスター」をのぞけば機関室への被害を免れた「ルイヴィル」と「シカゴ」の二隻の重巡、それに駆逐艦が六隻だけでしかない。
そして、猛追してくる日本の水上打撃艦隊から逃れられないと悟った時点で「ノーザンプトン」と「チェスター」は曳航作業を一時中断、「ルイヴィル」と「シカゴ」、それに六隻の駆逐艦とともに阻止線を形成する。
米残存艦隊はそのいずれの艦にも沈みゆく空母から救助された乗組員が甲板上にひしめいている。
その中には生き残りが極めて少ない搭乗員や養成者の絶対数が少ない兵器員や発着機部員といった貴重な人材が含まれている。
今ここで残存艦隊が撃滅されるようなことがあれば、それは機動部隊の再建に必要な人材の払底を意味した。
合衆国海軍はすでにウェーク島沖海戦で万単位の訓練された将兵を失っている。
これ以上の人的損害は米海軍組織そのものの存続すらも危うくする。
だからこそ、全艦が絶対に生きて真珠湾に戻らなければならなかった。
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