第45話 空母撃沈

 「一航戦、目標左翼の空母群。二航戦、目標右翼の空母群。

 一航戦各隊の攻撃法については一航戦指揮官の指示に従え」


 左翼の空母群を攻撃する「雲龍」隊ならびに「白龍」隊の指揮は一航戦指揮官にこれを委ね、攻撃隊総指揮官兼二航戦指揮官兼「飛龍」艦攻隊長の友永大尉は右翼の後方に控える空母を目指しつつ二航戦の各隊に攻撃目標を通達する。


 「『蒼龍』艦爆隊ならびに『飛龍』艦爆隊は敵の巡洋艦と駆逐艦を狙え。

 各隊の目標が重複しないよう気を付けろ。

 艦攻隊は艦爆隊の攻撃終了後に空母を攻撃する。

 『蒼龍』艦攻隊は前方の空母、『飛龍』艦攻隊は後方の空母を叩け」


 友永大尉は二航戦の各隊に目標を指示した後、今度は自身が直率する「飛龍」艦攻隊に指示を重ねる。


 「『飛龍』艦攻隊は挟撃を行う。第一中隊は左舷から、第二中隊は右舷から後方にある空母を攻撃せよ」


 友永大尉の命令一下、二航戦の中で先陣を切ったのは三二機の九九艦爆隊だった。

 敵艦隊に取り付く前にF4Fワイルドキャット戦闘機によって四機を撃墜されてしまったものの、それでも士気旺盛な艦爆隊は次々に翼を翻して米巡洋艦や米駆逐艦に降下を開始する。

 一方、米巡洋艦や米駆逐艦は輪形陣の外周に位置し、そのことで他艦からの支援を受けにくい位置にあるのにもかかわらずその対空砲火は熾烈だった。


 たちまち数機の九九艦爆が煙の尾を引きながら海面へと墜ちてゆく。

 それでも、生き残った九九艦爆はさほど臆した様子も見せず、目標艦の上空数百メートルにまで肉薄して必殺の二五番をそれこそ叩きつけるようにして投下する。

 爆弾を投じたことで敵艦はその興味を失ったためか、離脱を図る九九艦爆に向けられる追撃の火箭は少なかった。

 しかし、それでも被害はゼロで収まらない。

 友永大尉がざっと見たところ、F4Fの迎撃と敵艦の対空砲火によって撃墜された九九艦爆は最低でも一〇機以上あった。

 つまり、二航戦の九九艦爆隊はこの一度の攻撃で戦力の三割を喪失したことになる。

 あまりにも大きすぎる犠牲だ。

 だからこそ、自分たちに敵空母への道筋をつけてくれた戦友に報いるためにもこの雷撃は必ず成功させなければならない。


 友永大尉は決意も新たに目標とした空母へと接近、その艦影を観察する。

 艦橋と煙突が前後に分かれ、後方にあるそれは巨大の一言。

 考えるまでもなく、その姿は「レキシントン」級空母そのものだった。

 そして、「レキシントン」のほうはすでにウェーク島海戦で撃沈していたから、眼前の空母は「サラトガ」で間違いない。

 友永大尉の母艦である「飛龍」も決して小さい空母ではないが、それでも「サラトガ」のボリュームは圧巻だ。

 巨大な国力を誇る米国を象徴するような巨艦に、だがしかし友永大尉は畏怖するどころか一層の闘志をみなぎらせて理想の射点まで部下を引っ張る。


 邪魔者の米巡洋艦や米駆逐艦はその多くが先に九九艦爆が投じた二五番を被弾して猛煙を噴き上げている。

 装甲の薄い巡洋艦やそれが無きに等しい駆逐艦が二五番を食らえば無事で済むはずもなく、その対空砲火は大きく減殺されている。

 頼れる従者を失った「サラトガ」の舷側から多数の火箭が放たれる。

 だが、「サラトガ」自身が回避運動を行っているせいか、射撃精度はさほど高いものではない。

 友永大尉率いる「飛龍」第一中隊はその火箭を掻い潜るようにして「サラトガ」に肉薄する。

 同中隊があと少しで射点に到達しようかというまさにその時、第二小隊三番機が機銃弾かあるいは機関砲弾の直撃を食らったのか一瞬のうちに爆散する。

 その爆発の大きさから、燃料タンクあるいは抱えていた魚雷が誘爆したのかもしれない。

 部下の死を悼みつつ友永大尉は超低空飛行を続け、「サラトガ」まで一〇〇〇メートルに迫ったところで魚雷を投下する。

 七機に減った部下たちもそれに続いた。


 投雷を終えた第一中隊の九七艦攻が「サラトガ」の前方や後方をかすめて離脱を図る。

 第二中隊もまた投雷を終えたのだろう、第一中隊の九七艦攻とは逆方向に回避機動をとっている。

 先に「サラトガ」の左舷に三本、少し遅れて右舷に二本の水柱が立つ。

 五本の命中を得たとはいえ、水上艦艇や潜水艦のそれに比べて威力の劣る航空魚雷で三万トンを大きく超える巨艦を撃沈できるかどうかは微妙だが、それでも「サラトガ」が戦闘力を完全に喪失したことは間違いない。

 友永大尉が敵艦の射程圏外に脱出するとともに部下たちから続々と報告が入ってくる。


 「『ヨークタウン』級空母に魚雷五本命中、大傾斜。撃沈確実」

 「『ヨークタウン』級空母に魚雷六本命中、すでに沈みつつあり」

 「『ヨークタウン』級空母に魚雷五本命中、大炎上。撃沈間違い無し」


 少なくない犠牲を払いはしたものの、四隻の米空母をすべて撃沈破したのは間違いない。

 攻撃隊は当初目的を達成したのだ。

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