第43話 大規模防空戦闘
電探が敵編隊を捉えるのと同時に第三艦隊の上空にあった「翔鶴」と「瑞鶴」の合わせて二四機の零戦が無線による誘導を受けて東へと向かう。
同時に「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「瑞穂」と「日進」からそれぞれ一個中隊、合わせて四八機の零戦が飛行甲板を蹴って慌ただしく上昇していく。
その頃には五〇機ほどの編隊がかなりの速度で西から東へと向かうのが第三艦隊の各艦の電探表示装置に映し出される。
第二艦隊の直掩任務にあたる九六機の零戦のうちの半数が第三艦隊への助っ人としてその迎撃戦に参陣すべく駆けつけてきてくれたのだ。
零戦のありがたくない歓迎を受けたのはミッドウェー島から発進した数十機の爆撃機と、さらに第一七任務部隊の「ヨークタウン」と「ワスプ」、それに第一六任務部隊の「ホーネット」と「サラトガ」から発進した三六機のF4Fワイルドキャット戦闘機と一二六機のSBDドーントレス急降下爆撃機、それに五四機のTBDデバステーター雷撃機の合わせて二一六機からなる戦爆雷の攻撃隊だった。
真っ先に迎撃に向かった「翔鶴」と「瑞鶴」の二四機の零戦が圧倒的多数を誇るその米攻撃隊に突っかかっていく。
SBDやTBDを守るべく三六機のF4Fが阻止線を形成するが、五割増しの敵に対して零戦は臆した様子も見せず正面から戦いを挑んだ。
六〇機にものぼる日米の戦闘機が干戈を交える中、一方のSBDやTBDはそのまま日本艦隊へと進撃を続ける。
そこへ第三艦隊の四隻の空母から緊急発進した四八機の零戦が餓狼と化して牧羊犬を失った羊の群れに殺到する。
第三艦隊の四八機の零戦は敵編隊の下方を行くTBDに攻撃を集中した。
重厚な防御力を誇る装甲空母の「翔鶴」や「瑞鶴」といえども、一方で被雷にはさほど強くない。
剣呑な魚雷を抱くTBDはなによりも真っ先に潰しておかなければならない相手だった。
一方、狙われたTBDからすればたまったものではなかった。
わずか五四機のTBDが四八機もの零戦から襲撃をうけたのだ。
TBDは海面を這うような高度にまで降下、機体を必死に振って零戦の魔手から逃れようとするが、雷撃機と戦闘機とでは速力も運動性能も悲しいほどにその差は隔絶している。
零戦の両翼から放たれる一二・七ミリ弾に撃ち抜かれ、TBDは次々に海面へ叩き落されていった。
その頃には第二艦隊から応援に来た四個中隊四八機の零戦も攻撃を開始している。
二倍半以上にもおよぶSBDに対し、零戦は後ろ上方や後ろ下方、あるいは側面から機銃弾を撃ちかけ次々に火を噴かせていく。
だが、第二艦隊の零戦は先にミッドウェー島から発進したと思しき米軍機群と交戦していたため、SBDに対しては反復攻撃のための機会をさほど多く得ることはできず、撃滅できたのは「ワスプ」爆撃隊と同索敵爆撃隊、それに「ホーネット」爆撃隊と「サラトガ」索敵爆撃隊のみだった。
辛くも零戦の魔手から逃れた「ヨークタウン」爆撃隊と「ホーネット」索敵爆撃隊、それに「サラトガ」爆撃隊は第三艦隊の輪形陣を突破して空母にのみ的を絞って攻撃を開始する。
「ヨークタウン」爆撃隊に狙われたのは「翔鶴」だった。
米海軍屈指の手練れが駆る一八機のSBDは降下開始前に輪形陣を形成する駆逐艦の対空砲火で一機、さらに「翔鶴」の高角砲で同じく一機を撃ち落とされたものの、残る一六機は猛然と急降下を開始、必死に回避をはかる同艦に三発の命中弾を与えた。
命中した三発のうち二発は装甲飛行甲板によって弾き返された。
しかし、残る一発が左舷中央端の非装甲部を貫き、格納庫を挟み込むようにしてあった付近の兵員居住区を粉砕した。
同じ頃、「瑞鶴」もまた「サラトガ」爆撃隊に狙われ、こちらも三発を被弾、そのうちの二発までは「翔鶴」と同様に装甲飛行甲板によって事なきを得た。
だが、残る一発はあろうことか前部エレベーターを貫通、格納庫でその爆発威力を解放した。
「翔鶴」型空母は艦の中心線を幅二〇メートルにわたって五〇〇キロ爆弾にも耐えられる装甲防御を施しているが、一方でエレベーター部分は重量制限から装甲厚が五〇ミリでしかなく、一〇〇〇ポンド爆弾を弾き返すことが出来なかった。
「瑞鶴」にとって幸いだったのは、当時格納庫に機銃弾や燃料を抜き取ったカラの艦上機しかなく、格納庫内でガソリンが爆発したりあるいは機銃弾が爆ぜたりすることもなく迅速に消火活動が行えたことだ。
もし、ミッドウェー基地攻撃から戻ってきた機体をそのまま燃料も銃弾も抜き取ることなく格納庫に放置していれば、あるいは「瑞鶴」は致命傷を被っていたかもしれない。
「ホーネット」索敵爆撃隊に狙われたのは「瑞穂」と「日進」だった。
同索敵爆撃隊は中隊ごとに分かれ、九機が「瑞穂」に、残る九機が「日進」を攻撃した。
その「ホーネット」索敵爆撃隊は他隊と違い、編成されて日が浅く、それゆえに搭乗員も技量未熟な者が多く、全体の練度は他の空母に比べて明らかに劣っていた。
そのうえ部隊を二つに割ったものだから、「瑞穂」ならびに「日進」艦長の巧みな操艦によってその投弾をことごとくかわされてしまった。
結局、「瑞穂」と「日進」にそれぞれ一発乃至二発の至近弾を与えるのが精一杯だった。
米攻撃隊は確かに二隻の大型空母を撃破し、小型空母二隻に小破に相当する戦果を挙げたものの、一方で零戦の猛攻によって八割を超える機体とその搭乗員を失った。
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