第41話 戦力集中
当初、MI作戦において連合艦隊司令部の先任参謀や作戦参謀らは第二艦隊のみでミッドウェーを攻撃し、第三艦隊はアリューシャン方面に陽動として差し向ける方針だった。
第二艦隊の基幹戦力である「蒼龍」型空母は常用機だけでも七八機を運用し、それが四隻もあるのだから戦力としては十分だと考えられていたからだ。
それに、ミッドウェー基地の航空戦力は数十機程度と見込まれているし、なによりウェーク島沖海戦で「エンタープライズ」と「レキシントン」をすでに沈めているのだ。
そうであれば、第二艦隊だけで十分にお釣りがくる。
だがしかし、連合艦隊司令長官の山本大将はウェーク島沖海戦終了後に第三艦隊の桑原中将や第二艦隊の小沢中将、それに海軍次官の井上中将らから機動部隊の分散運用の愚を指摘されたことを重く見て、南方戦域で活動中の「千歳」と「千代田」を除くすべての稼働空母をミッドウェー方面に集中投入するよう指示した。
山本長官の方針に対し、先任参謀や作戦参謀らは現在使える米機動部隊の空母は二隻か多くても三隻のはずだから第二艦隊だけで十分に対応できるとして、自分たちの立てた従来計画に固執した。
しかし、山本長官はこれに取り合わなかった。
彼としては部下の参謀連中よりも井上中将らに正論を盾にあれこれ言われるほうがたまらない。
それに、ウェーク島沖海戦では「神鶴」と「天鶴」が敵の急降下爆撃機によって五〇〇キロ級と思しき爆弾を複数被弾、飛行甲板に張り巡らされた装甲防御が奏功して致命傷とならずに済んだものの、あるいはこれが「蒼龍」型であれば撃沈されていたかもしれなかった。
それもこれも、艦上機の数が十分ではなかったことが大きな原因だ。
だから、山本長官は念には念を入れ、ミッドウェーに向かう攻略部隊に随伴する予定だった「瑞穂」と「日進」についても、一時的にこれを第三艦隊に編入し、井上中将らに文句を言われないよう万全を期した。
第二艦隊
「蒼龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「飛龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「雲龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「白龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
駆逐艦「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」
(臨時編入)
重巡「妙高」「羽黒」
第三艦隊
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
(臨時編入)
「瑞穂」(零戦二四、九七艦偵六)
「日進」(零戦二四、九七艦偵六)
重巡「足柄」「那智」
MI作戦の目標はミッドウェー島の攻略ではなかった。
実際のところはこちらがミッドウェー島を攻撃することで、同島防衛のために出撃してくる米機動部隊の撃滅こそが真の目的だった。
作戦立案当初、連合艦隊の先任参謀と作戦参謀は第二艦隊の艦上機のうちでその半数をミッドウェー基地攻撃に、残り半数を出現が予想される敵機動部隊にぶつけることを考えていた。
だから、九九艦爆と九七艦攻についてはミッドウェー基地攻撃に向かう第一次攻撃隊はいずれも陸用爆弾、第二次攻撃隊のほうは九九艦爆が徹甲爆弾、九七艦攻は魚雷を装備して敵艦隊の出現に備える予定だった。
だが、もし敵艦隊が現れずかつミッドウェー基地に対する追撃が必要になった場合は徹甲爆弾や魚雷を外して陸用爆弾を装備しなければならない。
だがしかし、敵の空襲圏内で爆弾や魚雷の転装など危なくてとても出来たものではない。
このことを指摘する小沢長官や桑原長官に対し、先任参謀や作戦参謀は彼らを納得させるような対案を提示できなかった。
そして、そのこともまた山本長官が第三艦隊の任務をアリューシャンに対する陽動からミッドウェー基地攻撃に変更する大きな動機づけとなった。
結局、第二艦隊は敵艦隊の出現に備え、ミッドウェー基地への攻撃はもっぱら第三艦隊が担当することに決まる。
その第三艦隊は途中で米潜水艦の襲撃に遭うこともなく、攻撃発起点に到着すると同時にミッドウェー島に向けて攻撃隊を放った。
「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ零戦一二、九九艦爆一八、九七艦攻一八。
「瑞穂」と「日進」からそれぞれ零戦一二の合わせて一二〇機。
それらが第三艦隊上空で編隊を整え南東へと向かって飛翔していく。
攻撃隊が出撃したすぐ後に、索敵機もまた発進している。
四隻の空母から合わせて一六機の九七艦偵が二波に分かれて東から南東方面に扇状に散っていく。
ミッドウェー基地攻撃には参加しない第二艦隊からも同じく一六機の九七艦偵がこちらは北東から東の海域を捜索する。
合わせて三二機の九七艦偵による濃密な二段索敵によって必ず米機動部隊を発見することが出来る。
小沢長官と桑原長官はそう信じて疑わなかった。
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