第40話 新生機動部隊
太平洋艦隊によるフィリピン救援作戦は中止されることがすでに決定していた。
先のウェーク島沖海戦で太平洋艦隊は大敗し、八隻の戦艦と二隻の空母、それに多数の巡洋艦や駆逐艦を失ったのだからこの決定は当然と言えば当然だった。
だがしかし、このことは合衆国政府ならびに軍の中でもごく一部の者にしか知らされていない極秘事項となっている。
合衆国国民にこのことが知れた場合、その影響はあまりにも大きいからだ。
ウェーク島沖海戦で大打撃を受けた太平洋艦隊は、現在では大西洋艦隊からの増援を受けるなどして再建の途上にある。
しかし、一方の日本軍はそれを待つつもりは無いらしい。
現在、大戦力を擁する艦隊が蠢動の動きを見せている。
四隻の「蒼龍」型空母を基幹とする第二艦隊だ。
その第二艦隊は開戦劈頭にフィリピンの米軍基地を攻撃、わずか二日間で在比米航空軍のその戦力の大半を撃滅した極めて危険な機動部隊だ。
矢継ぎ早に攻めかかってくる日本軍の真意を読み解くことは簡単だった。
米国に対して国力が決定的に劣る日本は短期決戦を狙っているのだ。
矢継ぎ早の日本軍の攻勢に対応すべく、太平洋艦隊の司令部スタッフらは連日その対策に追われている。
戦死したキンメル提督のあとを襲って太平洋艦隊司令長官に就任したニミッツ提督もまた日本艦隊の対処に奔走する一人だ。
それでも、日本軍の目的地については見当がついていた。
ウェーク島沖で太平洋艦隊を打ち破った日本の第一艦隊と第三艦隊は大戦果を挙げたものの、一方で損害もまた大きく空母の半数と戦艦のすべてが現在修理中だということが分かっている。
さらに損傷した巡洋艦や駆逐艦も多数に及んでいるはずだから、常識的に考えればオアフ島への侵攻は考えられなかった。
第二艦隊は強力な機動部隊だが、それでも在オアフ島基地航空隊と戦艦部隊、それに空母部隊を同時に相手取れるほどの戦力は有していないはずだ。
そうなれば、東進を続ける連中が次に狙うポイントは、消去法で考えればミッドウェー島しかあり得ない。
その彼らを迎え撃つ戦力はすでに真珠湾に集結しつつある。
空母「サラトガ」といった一部の例外を除き、そのほとんどは遠路はるばる大西洋からそれこそ超特急で回航されてきた艦だ。
それら艦の中でも特に目立つのはウェーク島沖で非業の最期を遂げた「エンタープライズ」の姉の「ヨークタウン」と妹の「ホーネット」、さらにそれらを少しばかり小ぶりにした「ワスプ」の三隻の空母だ。
一方で、戦艦の姿は無かった。
大西洋を空にするわけにもいかないし、なによりニミッツ長官が空母を最優先で太平洋艦隊に回すように要望したからだ。
合衆国海軍もその期待にこたえ、「レンジャー」を除くすべての正規空母を太平洋艦隊へと配置換えした。
そのニミッツ長官の肝入りで集められた四隻の空母、それに八隻の巡洋艦と二四隻の駆逐艦は間もなく出撃する。
予想される日本の戦力は大小空母が七乃至八隻程度、それに巡洋艦と駆逐艦が三〇乃至四〇隻程度付き従うものとみられている。
戦力に劣る太平洋艦隊はミッドウェーで日本の艦隊を待ち伏せする。
その主力となるのは機動性に富んだ空母部隊だ。
それと、可能な限りの潜水艦戦力もまた同戦域に投入する。
ミッドウェー基地には海兵隊のF4Fワイルドキャット戦闘機が七機にF2Aバファロー戦闘機が二〇機。
これに陸軍が急遽派遣を決めた一二機のP40戦闘機が加わる。
陸軍はP40をさらに派遣できると言っていたが、飛行場のキャパシティの限界からこれ以上の増勢は困難だった。
他には急降下爆撃機や双発爆撃機、それに四発重爆といった対艦攻撃能力を持った機体が五〇機ほど、さらに哨戒や搭乗員救助にあたる三〇機あまりの飛行艇がすでに同島に配備されている。
出撃にあたり、ニミッツ長官は第一七任務部隊司令官のフレッチャー提督と第一六任務部隊司令官のスプルーアンス提督と打ち合わせを行い、そこで二つのことを要望した。
ひとつは敵の空母だけを狙うこと。
そして、もうひとつはヤバいと思ったらすぐに撤退すること。
開戦劈頭のウェーク島沖海戦で「エンタープライズ」と「レキシントン」を失った太平洋艦隊にとって空母は宝石よりも貴重な存在だ。
他方、日本艦隊との戦いを避けるというオプションは太平洋艦隊には与えられていない。
ウェーク島沖海戦の敗北と、近い将来において間違いなく現実化するフィリピン失陥を相殺できる戦果をルーズベルト大統領が求めていたからだ。
第一七任務部隊
「ヨークタウン」(F4F二七、SBD三六、TBD一五)
「ワスプ」(F4F二七、SBD三六、TBD九)
重巡三、軽巡一、駆逐艦一二
第一六任務部隊
「ホーネット」(F4F二七、SBD三六、TBD一五)
「サラトガ」(F4F二七、SBD三六、TBD一五)
重巡三、軽巡一、駆逐艦一二
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