第31話 航空攻撃
左翼に展開する四隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦に対する攻撃の割り振りは嶋崎少佐によってすでになされていた。
最後尾に位置する四隻の巡洋艦のうち、一番艦と二番艦は「翔鶴」艦爆隊が、三番艦と四番艦は「天鶴」艦攻隊がそれぞれ攻撃する。
前方の八隻の駆逐艦は「瑞鶴」艦爆隊ならびに「天鶴」艦爆隊の担当だ。
九九艦爆は二五番を、九七艦攻は九一式航空魚雷をそれぞれ装備している。
また、攻撃はそれぞれ中隊ごとに行うよう指示されていた。
真っ先に艦爆隊指揮官の高橋少佐が直率する「翔鶴」艦爆第一中隊が敵巡洋艦一番艦に向けて急降下を開始する。
この戦いが始まるまで九機あった「翔鶴」艦爆第一中隊も被弾損傷が相次ぎ、今では臨時に収容した「神鶴」の機体を加えてもわずかに五機にまで減少している。
一方、「翔鶴」艦爆第一中隊に狙われた米巡洋艦はその五機に対して猛烈な対空砲火で対抗する。
火箭に捉えられた二番機が盛大に煙を吐き出しながら海面へと墜ちていく。
だが、残る四機はまったく臆した様子も見せず高度五〇〇メートルまで肉薄、次々に二五番を投下した。
敵の対空砲火から逃れる際、高橋少佐は自身が狙った巡洋艦の砲塔が三連装でそれが五つあることを見抜く。
おそらくは「ブルックリン」級軽巡洋艦かあるいはその改良型だろう。
その巡洋艦の左右に水柱が立ち上り、さらに爆煙が二つわき立つ。
四発中二発が命中。
少数機で攻撃した割には悪くない成績だ。
追いかけてくる火箭をかいくぐり、ようやくのことで敵の有効射程圏から離脱した高橋少佐は、自分たちが攻撃を仕掛けた一番艦の後方にある二番艦に目を向ける。
敵二番艦もまた一番艦同様に煙を噴き出している。
「翔鶴」第二中隊もまた命中弾を得たのだ。
その頃には巡洋艦の前方に位置していた八隻の駆逐艦のうちの半数にあたる四隻が黒煙を吐き出しながら動きを止めている。
こちらは「瑞鶴」と「天鶴」の合わせて四個中隊、二一機の九九艦爆から襲撃を受けたはずだ。
つまり、「瑞鶴」隊と「天鶴」隊はそのいずれもが的が小さくて動きの速い、どの艦よりも命中させるのが難しい駆逐艦に対して見事に二五番を叩き込んだのだ。
高橋少佐が艦爆隊の戦果を確認した直後、今度は敵巡洋艦の三番艦と四番艦の舷側にそれぞれ一本の水柱がわき立つのが彼の視界に映る。
「天鶴」艦攻隊は一隻あたりそれぞれ六機という少数機による雷撃にもかかわらず、目標とした二隻の米巡洋艦に対してそのいずれにも魚雷を命中させたのだ。
その頃には「翔鶴」艦攻隊と嶋崎少佐が直率する「瑞鶴」艦攻隊もまた敵戦艦の七番艦と八番艦に向けて襲撃行動に移行している。
それら全機が左舷側からの攻撃だ。
九九艦爆の急降下爆撃やあるいは九七艦攻の雷撃によって被弾、盛大に煙を吐き出す巡洋艦や駆逐艦を尻目に一三機の「翔鶴」艦攻隊と一二機の「瑞鶴」艦攻隊は超低空を突き進む。
それらの行く手をさえぎるのは戦艦から吐き出される対空砲火だけだ。
高橋少佐は胸中で「翔鶴」ならびに「瑞鶴」艦攻隊に声援を送る。
途中、撃墜された機体があったのかもしれないが、ほとんどの九七艦攻は投雷を成功させ目標とした戦艦の前後を抜けて離脱を図っているようだ。
わずかに時間を置き、七番艦と八番艦の左舷に水柱が立ち上り始める。
敵の七番艦には四本、八番艦には三本の水柱がわき立った。
七番艦は撃沈確実、八番艦は微妙だが、ハワイまで持ち帰るのは至難だろう。
実際、七番艦は短時間のうちに回復不能なくらいに傾斜し、八番艦もまた完全に脚を止めてそのうえ遠目でもはっきり分かるくらいに左舷に傾いている。
これで、太平洋艦隊の戦艦部隊のうちで無傷のものは戦艦が六隻に巡洋艦が四隻、それに駆逐艦が一二隻。
一方の第一艦隊のほうも戦艦が六隻に巡洋艦が四隻、それに駆逐艦が一二隻。
数がまったくのイーブンであればあとは個艦の性能と将兵の技量、そして指揮官の能力が勝負を分ける。
「一時期、鉄砲屋の間で流行ったという漸減邀撃作戦に似た展開だな」
そのようなことを考えつつ高橋少佐は改めて戦場全体を俯瞰、戦果を確認する。
戦果報告は指揮官としてなによりも重要な使命だ。
これを間違うと艦隊司令長官はその後の判断を誤り、場合によっては友軍将兵らを無用の危機に陥れることも有り得る。
「戦艦一隻撃沈、一隻大破。巡洋艦と駆逐艦をそれぞれ四隻撃破」
高橋機が打電した端的な電文は、嶋崎少佐が同じく打電したそれとともに即座に第一艦隊司令部に伝わる。
同時に、第一艦隊の各艦が加速を開始した。
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