開戦
第16話 連合艦隊
壁に貼られた編成表を見た連合艦隊司令長官の山本五十六大将は、今日何度目になるか分からないため息をつく。
海軍の軍政畑における最強の人材をもって臨んだのにもかかわらず、結局のところ米国との戦争を回避することはかなわなかった。
その明晰な頭脳をもって軍令畑、軍政畑を問わず辣腕をふるう堀悌吉海軍大臣、さらに剃刀との異名を持つ切れ者の井上成美海軍次官らは米国との戦争を回避すべく最大限の努力を傾注してきた。
だがしかし、「米英討つべし!」という世論、あるいはドイツの快進撃に幻惑された開戦派らの数の力の前にはまったくと言っていいほどに無力だった。
そうなれば、あとは軍令畑の出番となる。
海軍軍令を司る軍令部総長には塩沢幸一大将がその任にあたっている。
山本長官とは海兵三二期の同期であり、その同期の中では常に堀大臣とトップを争った傑物でもある。
山本長官とともにいつしか彼らは三二期三羽烏、あるいは軍政三羽烏と呼ばれるようになり、そして今では帝国海軍の、もっと言えば日本の運命は彼らの双肩にかかっていると言っても過言ではなかった。
帝国海軍ではもうひとつ三羽烏と呼ばれる存在があった。
三七期三羽烏、あるいは航空三羽烏と呼ばれる、海軍航空の発展に大きな功績を残した井上成美、小沢治三郎、桑原虎雄の三人だ。
いち早く海軍の空軍化を提唱した井上中将はその巧みな弁舌と抜群の政治センスを買われて海軍次官の要職にある。
小沢中将は空母を中心とする洋上航空戦の権威であり、桑原中将は実際に操縦桿を握り、その経験を生かして数々の貴重な教訓を帝国海軍にもたらしてきた。
その小沢中将ならびに桑原中将は現在、それぞれ第二艦隊と第三艦隊の司令長官を務めている。
すでに第二艦隊も第三艦隊も空母を基幹とする艦隊だったから、この人事は海軍内でも当然のように受けとめられていた。
一方、三二期と三七期に挟まれた将官は、古賀峯一中将をはじめとした一部の例外を除き、そのほとんどが予備役に編入されるかあるいは閑職に回されていた。
三七期以降の優秀な人材をフル活用するための措置だったが、このせいで三三期から三六期までの卒業生は不遇の期あるいは不運の世代と呼ばれている。
また、三一期以前の将官も極一部が名誉職にとどまった以外はすべて退役しており、こちらは三二期の山本長官や堀大臣、それに塩沢総長に対する配慮でもある。
潜水艦や航空機の異常な発達によって海戦は第一次世界大戦以前の水上艦艇同士がぶつかり合う平面戦闘から三次元立体戦闘に移行している。
そのうえ、電探をはじめとした電子兵器の登場は古い世代の固い頭ではついていくのはよほどの天才でもない限り困難だった。
あるいはそれが、三一期と三二期の明暗を分けた要因かもしれない。
そんな益体のないことを考えつつ、山本長官はふたたびため息をつく。
果たして自分は近代戦闘に耐えうる頭脳を持つ指揮官なのかという疑念が払拭できない。
だが、すでに逡巡の時期は過ぎていることも自覚している。
連合艦隊は開戦を見据え、すでに動き始めているのだ。
全般作戦支援(太平洋艦隊邀撃部隊)
第一艦隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
駆逐艦「初風」「雪風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」
第三艦隊
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「神鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「天鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「秋雲」
南方部隊本隊
重巡「高雄」「愛宕」
軽巡「名取」「鬼怒」「長良」「由良」
駆逐艦「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」
フィリピン空襲部隊
第二艦隊基幹
「雲龍」(零戦二四、九九艦爆二七、九七艦攻二七)
「白龍」(零戦二四、九九艦爆二七、九七艦攻二七)
「千代田」(零戦二八、九七艦偵二)
「瑞穂」(零戦二八、九七艦偵二)
「日進」(零戦二八、九七艦偵二)
重巡「摩耶」
駆逐艦「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」
フィリピン攻略部隊
重巡「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」
駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「白露」「時雨」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」
マレー攻略部隊
「蒼龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
「飛龍」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦偵六)
重巡「鳥海」
駆逐艦「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」
ウェーク島攻略部隊
空母「千歳」(零戦二四、九七艦偵六)
軽巡「球磨」「多摩」
駆逐艦「皐月」「水無月「文月」「長月」「睦月」「如月」「弥生」「卯月」
グアム攻略部隊
軽巡「北上」「大井」
駆逐艦「菊月」「三日月」「望月」「夕月」
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