第14話 改造艦
日ごとに米国との関係が悪化するなか、帝国海軍は新造艦の整備と併せ、改造艦計画の実施を繰り上げるとともにその進捗を急ぐことにしていた。
二大洋艦隊整備計画によって大戦力を得ようとしている米海軍に対し、少しでもその差を埋めるための貧乏海軍の苦肉の策だった。
真っ先に改造の俎上にのぼったのは「千歳」と「千代田」、それに「日進」と「瑞穂」の四隻の水上機母艦だった。
これら四隻はロンドン海軍軍縮条約の制限に従って一万トン以下で建造したことになっているが、実際には完成時点で一万トンを大きく超えていた。
当然のことながら、各国には一万トンと偽って通告している。
さらに、これら四隻は実際のところは最初から空母への改造を前提として設計されており、このことで水上機母艦としてはいささか不便なところもあった。
その「千歳」と「千代田」、それに「日進」と「瑞穂」の四隻はそのいずれもが高速大重量化が著しい艦上機に対応できるよう、飛行甲板を可能な限り大きくとるために空母改造にあたってはエンクローズドバウを採用している。
エンクローズドバウは艦内容積の増大にも貢献したが、一方で横風圧面積の増大やトップヘビーへの悪影響も無視できないことから、その代償重量として高角砲の数を当初予定の半分に減らしている。
それと、これら四隻は空母改造に伴い機関を換装、主機と主缶は空母や巡洋艦用のものを半数搭載し七六〇〇〇馬力を叩き出すそれは彼女らに三〇ノットの速力を与えている。
他には四隻の「香取」型が練習巡洋艦で建造されるところを、急遽その方針を改め護衛巡洋艦として完成させた。
もともと、帝国海軍では士官候補生の遠洋航海には専門の練習艦ではなく旧式の装甲巡洋艦などを充てていた。
だが、従来から老朽化あるいは装備の旧式化が問題とされていたことで、軍縮条約の軛から逃れられるマル三計画において四隻の建造が進められたのだ。
その「香取」型巡洋艦は通常時には練習巡洋艦として、戦時には護衛艦隊の旗艦任務にも使える護衛巡洋艦としてその運用が考えられていた。
しかし、日米の険悪化に危機感を抱いた帝国海軍上層部は万一の開戦に備えて護衛戦力を拡充すべく「香取」型巡洋艦を練習巡洋艦ではなく護衛巡洋艦として完成させることを決断、その一方で最新鋭練習艦の入手はこれを諦めた。
そして、これら四隻の「香取」型巡洋艦は当初搭載するはずだった後部の主砲や高角砲といった武装を撤去して格納庫を増設、一基を予定していたカタパルトも二基に増強して水上機を四機運用する航空護衛巡洋艦ともいえる存在となる。
また、前部主砲と左右に装備されるはずだった魚雷発射管も同様に搭載を見送り、その代わりに高角砲を増備、さらに機銃も増強したことで対空火力も格段に強化されている。
これら四隻の「香取」型は発足してまだ間がない海上護衛総隊でその基幹戦力になるとともに、水上機と連動した対潜艦としての働きも期待されている。
<メモ>
「千歳」型空母(同型艦「千代田」「瑞穂」「日進」)
空母改造完了時
・全長一九三・五メートル、全幅二一・五メートル
・基準排水量 一二五〇〇トン
・飛行甲板 一九二メートル×二四メートル
・四缶二軸 七六〇〇〇馬力、三〇ノット
・常用三〇機
・八九式一二・七センチ連装高角砲二基四門、二五ミリ三連装機銃一二基
軍縮条約の制限から水上機母艦として産声をあげた「千歳」型は実際のところは最初から空母として最適化された設計で建造されていた。
水上機母艦のスタイルは軍縮条約が明けるまでの仮の姿であり、そのことで当時としては運用面でいささかの難があった。
空母への改造に際しては飛行甲板長を最大化するためにエンクローズドバウを採用している。
一方で、横風圧面積の増大ならびにトップヘビーが懸念されたため、高角砲は八九式一二・七センチ連装高角砲四基八門とする予定だったのを同二基四門に減少させている。
「香取」型巡洋艦(同型艦「鹿島」「香椎」「橿原」)
航空護衛巡洋艦への改造時
・全長一三三・五メートル、全幅一七メートル
・基準排水量六〇〇〇トン
・一一〇〇〇馬力、二〇ノット
・一二・七センチ連装高角砲三基六門
・水上機四機、カタパルト二基
もともと、練習巡洋艦として計画された「香取」型は、改造を施すことで戦時には水上機を四機搭載可能な航空護衛巡洋艦に出来るよう設計段階で考慮されていた。
当初は予算節約の見地から機関のほうは八〇〇〇馬力で一八ノットを予定していたが、これでは高速輸送船との同道ならびに浮上潜水艦への追撃が困難であるとして二〇ノットが発揮できるよう主機と主缶を力量の大きなものに変更している。
その「香取」型巡洋艦は搭載水上機による対潜哨戒やあるいは上陸支援任務にも対応することが出来、それなりに使い勝手も良いことから性能諸元が低い艦にもかかわらず海軍内での評価は高いものがある。
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