第13話 近代改装

 帝国海軍では軍縮条約明け後の新造艦の建造ラッシュが続く一方で既存艦の改修工事もまた進められていた。

 「扶桑」型や「長門」型といった戦艦はそのすべてが大正期に建造されたものであり、攻撃力や防御力、それに速力を向上させることでその延命を図ることにしている。

 また、軍縮条約における排水量の制限によって十分な武装や防御を施せなかった巡洋艦もまた戦艦と同様に改修の俎上にのぼっている。

 さらに、駆逐艦以下の小艦艇についても急激な発達を遂げる潜水艦やそれに進化著しい航空機といった三次元立体機動を可能とする新たなる脅威に対応できるよう聴音機やソナーの刷新、それに対空火器の増強を逐次図ることにしていた。


 ・「長門」型戦艦の機関換装に伴う高速化。

 ・「扶桑」型戦艦の主砲を三六センチ砲から四一センチ砲へ換装ならびに機関換装。

 ・「蒼龍」型空母の対空兵装強化。

 ・「妙高」型重巡の主砲を二〇センチ砲から二三センチ砲へ換装。

 ・「高雄」型重巡の主砲を二〇センチ砲から二三センチ砲へ換装。

 ・「最上」型軽巡の主砲を一五・五センチ砲から二三センチ砲へ換装。

 ・「天龍」型や「多摩」型といった旧式軽巡、それに旧式駆逐艦の装備刷新。


 これらのうち、「長門」と「陸奥」は主機と主缶を換装する。

 このことで出力が八万馬力から一四万四千馬力と大幅アップするうえに船体延長工事による推進抵抗の軽減効果も相まって二九ノットの高速戦艦となる。

 三六センチ連装砲塔四基八門だった「扶桑」と「山城」、それに「伊勢」と「日向」の四隻は極秘裏に四一センチ砲に換装する。

 また、機関も主機や主缶の換装で新たに一三万六千馬力の出力を得ることで、こちらもまた二九ノットの快速を誇る強武装高速戦艦へと変貌を遂げる。

 さらに、これら六隻の戦艦はそのいずれもが一四センチ乃至一五センチ副砲を撤去して高角砲や機銃を増備、対空能力を向上させることにしている。


 戦艦に次ぐ水上打撃戦力の大型巡洋艦については、「妙高」型と「高雄」型の八隻の重巡、さらに一五・五センチ砲一五門の「最上」型軽巡の主砲をいずれも二三センチ砲へと換装する。

 門数こそ一〇門あるいは一五門からそれぞれ八門に減るものの、それでも従来の重巡の四割増し、軽巡に至っては三倍近い重量弾を誇る二三センチ砲を装備させることでこれら一二隻の巡洋艦はその時点において間違いなく世界最強の巡洋艦となるはずだった。

 また、主砲の換装に併せて高角砲や機銃の増備も図ることにしており、進化が著しい航空機に対する反撃能力を大きく向上させる。


 駆逐艦は「睦月」型以前の旧式艦はすべての主砲を降ろし、さらに魚雷発射管は自衛用に一基だけを残してあとはすべて撤去する。

 その空いたスペースに高角砲や機銃を増設、対潜装備も最新式のものに更新して対空、対潜能力を向上させることにしている。

 また、「吹雪」型駆逐艦は主砲をすべて従来の平射砲から八九式一二・七センチ連装高角砲へと換装し、弱点だった対空能力の増強を図る。

 ただし、同駆逐艦は重量物の高角砲や機銃、それに射撃指揮装置を装備するための代償重量として予備魚雷をすべて降ろすことになる。

 しかし、その一方で魚雷発射管のそれは一般的な空気魚雷から酸素魚雷が運用可能なものに更新することにしており、他国の駆逐艦の水準を上回る雷撃力を持つことに変わりは無い。


 潜水艦もまた、酸素魚雷発射能力の付与だけでなく、電探ならびに新型聴音機やソナーの装備、さらにドイツ製の優秀な潜望鏡の導入、それに徹底した静音対策やバッテリーの改善などスペックに現れにくい探知性能や隠密性を大幅に向上させる。


 帝国海軍のこれからの主力となる空母については、軍縮条約の軛から逃れた四隻の「蒼龍」型の対空火器を増備する。

 高角砲は従来の八センチ単装高角砲八基八門から一二・七センチ連装高角砲八基一六門へと大幅に増強され、また舷側に機銃ならびにその射撃装置を据えるためのスポンソンを設け、二五ミリ三連装機銃を二〇基増備することにしている。


 なお、これら各艦には防錆や防水に優れ、堅牢性や信頼性の高い通信機をはじめとした諸装備や、被害を極限化するための消火設備や最新の注排水装置といった応急指揮装置が導入され、こちらも数字に現れにくいが、確実に艦そのものの性能を高めている。

 加えてそれら艦艇はそのいずれもが工作設備や医療設備が従来よりも充実し、将兵のコンディションに重大な影響を及ぼす居住性にも可能な限りその配慮がなされている。


 また、艦だけでなく陸上基地のほうも同様に通信機能の増強をはじめとした設備の更新、さらに小規模基地にも電探を設置することが予定されている。

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