第11話 条約型空母
ロンドン海軍軍縮会議で対米英六割となる八一〇〇〇トンの空母保有枠を獲得した帝国海軍だったが、その建造については手探りの部分が大きかった。
空母という艦種が生まれてまだ間が無いこと、それゆえ戦艦ほどには設計面でも運用面でもそのノウハウが積み上げられていないことが大きな理由だった。
また、それ以外にも帝国海軍では予算あるいは造修施設といった大きな制約が存在した。
それでも、将来の主力艦と目される空母建造に停滞は許されない。
まずは、許された枠内でどの大きさの空母を建造するかについて決めなければならなかった。
そして、喧喧囂囂の議論の末、四つの案が最終候補として残る。
・第一案 二七〇〇〇トン空母を三隻建造
・第二案 二〇二五〇トン空母を四隻建造
・第三案 一六二〇〇トン空母を五隻建造
・第四案 一三五〇〇トン空母を六隻建造
この案以外にも二七〇〇〇トン空母と一三五〇〇トン空母あるいは二三五〇〇トン空母と一七〇〇〇トン空母をそれぞれ二隻ずつ建造するなどといった案が提示されていた。
だが、これらについては建造費低減の見地からすべて却下され、新規建造する空母はそのいずれもが同じ排水量にすることとされた。
また、ロンドン条約の締結に伴って廃艦となる「榛名」ならびに「霧島」の二隻の戦艦を空母に改造することも検討されたが、こちらもコスト的に見合わないとしてその対象から除外されている。
俎上に残ったものについて、まず第一案には飛行甲板に装甲を施した甲案とそうではない乙案の二種類があった。
甲案のそれは、爆弾や魚雷それに航空燃料などといった可燃物を多く搭載する空母の性格からみて飛行甲板に防御装甲を施すのは必須という意見からきたものだ。
しかし、仮に二七〇〇〇トンという条約の上限いっぱいでこれを建造したとしても艦型は中途半端な大きさとなり、搭載機数がさほど多く見込めないことから見送られることとなった。
一方、同じ二七〇〇〇トンでも飛行甲板に装甲を施さない乙案では多数の搭載機を確保できることがメリットだった。
その攻撃力の大半を艦上機に依存する空母にとって搭載機数はなによりも重要なファクターだ。
だが、一方で一つのカゴに大量の卵を盛るリスクがあること、さらに大型空母の建造によって米国が同じように巨大空母にその志向を振る恐れがあるとしてこちらも却下される。
第三案と四案はいずれもまとまった数が建造できること、さらに排水量が手頃なことで有力視されていた。
特に第三案では二個航空戦隊を編成したうえに残る一隻を改装や整備、それに訓練に供することが出来るから柔軟な運用が可能となる。
それに、一六二〇〇トンという排水量なら複葉機が主流である今の艦上機にとっては十分な飛行甲板面積を確保することも可能だ。
だが、今後の艦上機の大型高速化に対して発展性や冗長性に欠ける、あるいは十分な防御を施すことが出来ないといった指摘がなされたことからこちらも採用されることはなかった。
結局、消去法のような形で第二案が最終的に残り、「マル一計画」と「マル二計画」でそれぞれ二隻ずつ建造されることとされた。
当然のことながら、建造される空母は各国に対しては二〇二五〇トンと通告されるが、その排水量は実際のそれを大きく超過している。
そして、それら四隻の空母はいずれも「龍」の名を冠する有力な中型空母として完成、洋上航空戦力の一翼を担うことになる。
<メモ>
「蒼龍」型(同型艦「飛龍」「雲龍」「白龍」)
竣工時
基準排水量 二〇二五〇トン(各国への通告値、実際は二三五〇〇トン)
全長二四七メートル、全幅二六メートル
飛行甲板二四六・五メートル×二九メートル
八缶四軸一五二〇〇〇馬力、三三ノット
八センチ単装高角砲八基
搭載機数七八機(うち二〇機近くを飛行甲板露天繋止)、昇降機三基
改装後
全長二四七メートル、全幅二六メートル
基準排水量 二四八〇〇トン
飛行甲板二四六・五メートル×二九メートル
八缶四軸一五二〇〇〇馬力、三二ノット
一二・七センチ連装高角砲八基一六門、二五ミリ三連装機銃二〇基六〇門
搭載機数七八機(うち二〇機近くを飛行甲板露天繋止)、昇降機三基
「蒼龍」型空母は建造当初は船体を可能な限り大きくとるため、重量物の砲熕兵器は最小限とされた。
また、飛行甲板長を最大化するためにエンクローズドバウを採用、さらに飛行甲板に露天繋止できる艦上機の数を増やすために艦首を太くしてほぼ長方形の飛行甲板にしている。
このため、馬力の割には速力がやや物足りないものの、それでも三〇ノット以上を余裕で発揮する。
軍縮条約明け後に実施された改装では高角砲の刷新や機銃の大量装備によって対空能力を向上させ、さらに最新の応急指揮装置の導入や装甲の増厚等によって防御力を高めている。
それに伴って排水量も増大し、このことで最高速力と航続距離が若干低下したものの戦う空母としての能力は大きく向上している。
艦上機の大型化、大重量化に対応すべくカタパルトの開発も鋭意進められており、その設置のためのスペースも設けられている。
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