第4話 第一次世界大戦

 第一次世界大戦において、英国から四隻の「金剛」型巡洋戦艦の貸与を申し込まれたとき、日本政府と外務省は頭を抱えた。

 当時、日本には「金剛」型巡洋戦艦を除けばまともな戦艦は「扶桑」一隻しかなく、他はド級戦艦や前ド級戦艦といった二線級の主力艦しかなかったからだ。

 そのような理由から、日本政府や外務省は当事者である帝国海軍が英国の申し出に対して首肯するはずがないと思っていた。


 だがしかし、その予想に反して帝国海軍は「金剛」型巡洋戦艦の貸与を条件付きで受諾する。

 その条件とは、もし仮に貸与した「金剛」型巡洋戦艦が損失の憂き目にあった場合は代艦ではなく海軍に対して金銭補償せよというものだった。

 そして、その金は失われた艦を補充するための建艦費に充当するという。

 その帝国海軍の対応に、英国との良好な関係を維持したいと願う日本政府や外務省の関係者らは胸をなでおろした。

 だが、政府も外務省も知らなかった。

 帝国海軍が「扶桑」型戦艦の改設計によって、すでに四一センチ砲搭載戦艦による艦隊整備を目論んでいることを。

 そのことで、四一センチ砲への換装が困難な「金剛」型巡洋戦艦は海軍上層部ではいまや型落ち戦艦とさえ認識されていたことを。




 英国へと派遣された「金剛」型四姉妹に待っていたのは過酷な運命だった。

 欧州に到着したその年に「金剛」と「比叡」がドイツ潜水艦U21によって立て続けに沈められ、「榛名」と「霧島」もジュトランド沖海戦においてドイツ戦艦との撃ち合いの末に大きく傷ついた。

 結局、日本に生きて戻れたのは「榛名」と「霧島」の二隻のみで、それも戦争が終わってから半年以上も経ってからのことだった。

 ただ、悪い事ばかりでもなく、日本から英国へ派遣されていた技術者らは「榛名」ならびに「霧島」の修理の機会を通じて英国の先進的な造修技術を体得することが出来た。


 それと、第一次世界大戦で辛酸をなめたのは「金剛」型巡洋戦艦だけではなかった。

 英国の求めに応じて派遣され、地中海をはじめとした欧州の海でUボート部隊と死闘を繰り広げた日本の駆逐艦部隊もまた大きな被害を受けた。

 有力な潜水艦探知装置を持たない日本の駆逐艦にとって海中にひそむUボートを捉えることは至難であり、いくら目の良い日本兵でも目視による見張りでは限界があった。

 それでも懸命に英国をはじめとした味方商船を守り、粘り強く戦い抜いた日本の駆逐艦は各国海軍から高い評価を受けた。

 第一次世界大戦で英国が得た対潜水艦戦の知見と技術の提供を帝国海軍が申し入れた際も、日本の駆逐艦の献身を知る同国は快くそれに応じている。


 日本は第一次世界大戦で貴重な巡洋戦艦と駆逐艦に少なくない被害を受けたが、一方で海上交通路保護の重要性を理解し、潜水艦の恐ろしさを知った。

 それとともに、帝国海軍がおおいに驚き、興味を持ったのが今次大戦で初めて出現した航空機による雷撃と、その戦果であった。

 英国の水上機母艦から発進した三トンにも満たない水上機が、その抱えていた航空魚雷で数千トンの船を撃沈したのだ。

 逆を考えればいい。

 素早く軽快に三次元機動できる水上機に比べれば、水面を動くだけしかできない艦艇はあまりに遅く鈍重だ。

 もし仮に、有力な対空火器を持たない日本の艦隊に魚雷を抱えた多数の水上機が殺到してきたらどうなるか。

 戦艦同士の艦隊決戦を待つまでもない。

 日本の艦隊は壊滅だ。

 対抗手段は二つ。

 豆粒のような小さな的の航空機を捕捉撃墜できる優秀な射撃指揮装置とそれに連動した対空火器を艦艇が装備すること。

 もうひとつは敵航空機を撃退できる航空機を持つこと。


 このことで、帝国海軍は悟る。

 技術的にいまだ未熟な潜水艦といえども、戦艦を屠る力を持つことはすでに証明されている。

 産声をあげたばかりの航空機も、今後は発動機の強化に伴い急速に大型高速化ならびに大攻撃力を持つに至るのは目に見えている。

 現在海軍の主力である戦艦もまた今後も大型化、高速化への進化を続けてはいくだろう。

 しかし、それは予算や造修施設の問題から遠からず限界がくる。

 ただでさえ、各国ともにその戦艦にかける膨大な建造費や維持費にあえいでいるのだ。

 戦艦の大型高速化はそれに拍車をかける結果になるだけだろう。

 それに、戦艦の防御力が上がるのであれば、潜水艦も航空機もそれに見合った破壊力を持つ魚雷や爆弾を搭載することになるはずだ。

 そのことは明らかに戦艦よりも発展余地のある潜水艦や航空機の方が有利だ。

 いずれにせよ、海中を三次元機動できる隠密性にすぐれた潜水艦や、空中を高速機動できる航空機に対して、ただ水面を動き回る姿丸出しの水上艦艇は明らかに分が悪い。

 早急な対策が必要だった。

 だがそれは、今の帝国海軍には荷が重い課題でもある。

 人材や予算の限界から、代償となる何かを削らなければならなかった。

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