第24話

「ぴぴぴっぴぴぴ」

「……」

「ぴーーっ」

「……」

「まない──」

「言わせないからなぁ!」

 ガブリエルの口から出ようとした言葉を私は阻止すべく勢いよく起きた。

 当の本人はどこにいるかと言えば天井に寝転がっている。私も何を言ってるかさっぱりだけど本当にそんな感じだ。

「おはようございます陽七乃さん」

「おはようガブ。今何時?」

 体を起こし、窓の外を見ると空はまだ少し暗い。

「今は午前の5時半です」

「5時半か〜」

 いつもはこれの一時間ぐらい後に起きるのだが、幼いころの家族旅行の日のように気分が浮ついていたらしい。

「お薬もらえるのそんなに嬉しいんですか?」

「ちょっと言い方が悪い感じじゃない?」

「事実を述べたまでです」

 なんか毅然としてる感じが腹立つ。だがいつものことだ。放っておこう。

 私はとりあえずスマホを手に取り、メールの着信と搭乗予定のフライトのチケットを確認する。フライト予定は7時15分。薬の受け渡しは6時半だ。

 まだ時間に余裕はあるが、それよりも限界な存在があった。

 ぐう、と鳴った私のお腹。空腹だ。

「ここってモーニングありましたっけ」

「あるけど時間とお金が惜しいので自販機で済ませる。買いに行くよ!」

「いってらっしゃ〜い」

 意外にもガブリエルは私が寝ていたベッドに腰掛けたまま私を見送ってきた。まあ買う物に忠告を受けたりするのも面倒なので助かったと思うことにして二階のホールにある食品自販機の前に移動した。

 対応する金額を投入し、番号をパネルで入力すると内部で機械が動いてアンパンが突き落とされる。ガタン、と飲み物のような音は無くパサッとビニールが中身の重さでクシャクシャにされた音が聞こえ、取り出し口から手に取った。

 もちろんアンパンを買えばお供も必要だ。隣の紙パック専門の自販機から牛乳を購入し、部屋へと戻る。

「あ、おかえりなさい。ご飯ってそれですか?」

 私の左手に収まる二つの物体を見ながらガブリエルは唖然とした表情で聞いてきた。

 私が「うん」と答えるとさらに「うぇえ?」と顔をしながら声を漏らし、頭を掻きながら私の前に歩いてくる。

 ずんずんと近づき、それに対応するように後ずさるがついに壁に追い詰められ、何が起きるのかと緊張が走った。

 改めて対面するとガブリエルは私を見下ろすほどの身長差で、見下ろされると鼓動が早くなる。

「陽七乃さん」

「……なに」

 いつものふんわりとした口調ではない真面目な口調で名前を呼ばれた私は少し強気に応じながら彼の顔を見ると顔も真面目な面持ちだった。クマはあるものの二重ふたえで翠の瞳、黒のウルフカット。中々な美形だ。

 それから緊張から来る鼓動はさらに早くなり、ドクドクと脈打つ音が露骨に聞こえる。

「財布を貸してください」

「……は?」

 時刻は午前5時40分。天使に財布を要求されました。

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