第130話スポーツチャンバラ




何やら、瞳が大きなバッグを抱えて出掛けようとしている。


「あなた、出掛けるので留守をお願いね」


「え!何処へゆくの」


「言ってなかった。新人冒険者の指導を頼まれたの」


「イヤイヤ、聞いてないよ。気になるからついて見ていていいか?」


「べつにかまわないけど・・・」


山田のおっさんの頼みらしい。

歩きながら聞いた話だと、高校を卒業して全寮制からもどって来た村の女子3名と、そこで知り合った女子9名が指導対象らしい。

山田のおっさんも、若い女子を指導するのも苦手意識があったのだろう。

それで、瞳に相談を持ちかけたらしい。

何でも冒険者育成に本腰を入れた、教育システムを導入した学校だった。


村役場でも、村の女子を安易にダンジョンに入れたくなかった。

誠黒ダンジョンで犠牲者が出たので、役場からも指導要望が強かったらしい。

彼女らにも、村役場からの冒険者指導を受けないと、ダメだと言われたようだった。



村役場の足湯の横で、女子が賑やかに話し合っている。

鈴木課長が駆け寄って「厳しく指導してやって下さい」そう言いながら、何度も頭を下げていた。


「おじいちゃん、心配しないで。これでも優秀だったのよ」


真紀まき、油断は禁物だ。わたしは心配でたまらんよ」


「いい、わたしが指導する青柳瞳よ。厳しく指導するからね」


「お願いします」


彼女は素直にオジギをしている。そうとう礼儀に煩い学校だったのだろう。


「3名で1グループを作って」


気心知れたグループがすぐに4グループが出来上がった。


「スポーツチャンバラをあなた達にして貰うから、このバッグから好きな物を選んで」


彼女らは、一斉に駆け寄ってあれやこれやと選んでいた。


「2名は魔物役で、利き腕でない方でソフト剣を持って1名を攻撃する。人間役は両手を使ってもいいわ。二刀流でもいいわよ」


何やらごそごそと相談しながら、役が決まったようだ。


「決まったようね。魔物も人間も真剣に戦いなさい。分かった!どこを打突しても1本、戦う時間は1分よ」


「はい」


「試合開始・・・何やっているの、視野をもっと広げなさい・・・予備動作を見てすぐ反応する。考えてからだと間に合わないよ」


はじまった途端に、人間役は呆気なく叩かれていた。

パーティーを組んでの複数の戦いは習ったが、1対2での戦いは経験が無いに等しい。

誰も助けてもらえない状況は、新人には辛いだろう。

その為の、利き腕封印のハンデ戦にしているのに、まだまだ経験不足だ。


それを何度か繰り返して行い、メンバーチェンジして繰り返した。


「何度も言わせないで、動作が大きくなってるよ。状況をもっと見て判断する」


ようやく人間が対処出来るようになったら、魔物役3名に増やし同じように行なっていた。


「何故急に打たれ出してるの、もっと冷静に判断しなさい。そこ、スキだれけよ」


俺の横で鈴木課長は、「成る程、成る程」と感心ばかりしている。

鈴木課長の話だと、女子3名は多々良ダンジョンを盛り上げようと決心。

その為に、冒険者育成に力を入れて学校に入学。

多々良ダンジョンで、戦う仲間を探していたらしい。

その為に、既に家を契約して共同生活をしている。



彼女達は疲れ果てて、座り込む者もいた。

それに、何人かの村人もそんな彼女らを見ていた。

瞳も、もうダメだと判断したようだ。


「今日は、ここまで。温泉施設に入って疲れを癒しなさい」


返事が返ってこないまま、うな垂れていた。

そうとうな疲れと、悔しさが後ろ姿からもにじみ出ていた。


「どうもありがとう御座います。大変に為になったと思います。明日もこの時間でいいですか?」


「それで構いませんよ。鈴木課長」


俺と瞳はしばらく鈴木課長と話して、我が家に戻った。




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