第106話中国から帰る




屋上の戦いが終わった瞬間に、大勢の人が雪崩れ込んできた。

兄弟の周りには、人込みが出来て、大声でなにやら怒鳴っていた。

カメラでカシャカシャと撮られていて、賑やかだが俺を遠巻きに見てくる者がいて嫌な気分だ。


俺のそばに、赤城奈菜がやってきた。


「大丈夫だった」


「ああ、何とか倒したよ。弟がワープの使い手だった」


「ワープって何」


「空間を瞬間移動を出来るやつだよ」


「あんたは、スキルを色々持っているようね」


「そうか・・・」


そんな光景を、他のメンバーはにやけた顔で見ている。


俺は、取得した3つの能力を見ていた。


ワープがワープⅡにかわり、弟の能力が追加されたみたいだった。

目で見た物ならワープさせることが、弟の能力であった。

警護人や要人は、既に地中深くにワープさせられて殺しているらしい。

そして、今回の事件で弟が50人近くを殺していて、兄は要人の7人しか殺していない。

弟は兄思いだったが、それ以外の人間には冷酷であった。



兄との戦い中に、兄についてある程度の考えが読めた。

兄は大人になり冒険者になった途端に、2つの支援スキルを手に入れた。

1つは結界で、四角い結界を防御に使い攻撃を防いでいた。

そして自由に動かして攻撃にも使っていた。


そしてもう1つは、操作で電子機器やネット内を自由に操作する物だった。

防犯カメラを見て潜入して、配線内を伝わって記憶媒体を自由に改ざんが出来た。

そしてネット内を操作して、偶然にも親を殺した犯人を見つけたのだ。



『それは一方的な通達が、山に暮らす村に伝えられた。ダム建設を行なう為に、立ち退きが言い渡された。何の保障もなく、ただ期限前には出て行けの通達に、一部の村人が猛反対。数日後、夜に強盗が押し入り、反対した村人が殺された』


そんな時に弟が、ワープを習得して協力を頼んだ。

そして関与した人物を、ネットに書かれた順番通りに殺していた。



今回の事件も、ネット操作で要人の居場所を調べた。

そして、ホテルの出口が見える部屋を予約していたのだ。

そのホテルの部屋で待ち構えて、出てきた瞬間に警護人を地中にワープさせた。

そして、陳涛を部屋にワープさせて、ナイフで脅して自白させた。

後は兄が風呂場で殺害して、血を採取して外に出かけて壁に血文字を書いた。

死骸は弟が地中にワープさせて、証拠の隠滅いんめつを図った。


風呂場は洗剤などで綺麗に洗い流したが、酸素系クリーナーで洗う以外は証拠は残っているだろう。

なので詳しく風呂場を調べれば、血の証拠はでるはずだ。



現場にあったノートパソコンは、重要な証拠になりそうだが、何故か紛失したらしい。

どうやら隠しておきたい物が、色々と入っていたらしく、公表出来ない物だった。


帰りのプライベートジェット機内で、俺の報酬が5億円で、小林が2億円、赤城と南雲は1億円。

南雲は、いいアルバイトが出来たと喜んでいる。

そして帰りの荷物は大きく、土産一杯に入っていると自慢をしている。




俺は、【黒空間】に前回と同様に漢方薬を、1年間使っても使い切れない程を詰め込んだ。


成田空港で南雲と小林と赤城が降りると、俺らは神戸空港で降りたが、やはりギルド職員による事情聴取が成された。

部屋にはカメラが設置されて、サングラスを掛けた男が壁に背を当てて、俺の方を見ている。

椅子に座って話しているのは、50代の女性でキャリア組みなのか、貫禄があった。


「あなた、部屋を見た瞬間に『屋上へ逃げた』と言ったそうね」


「そうでしたか?俺って勘が鋭いので、思わず出た言葉ですよ」


「あくまでもしらを切る積もりね」


「すると、俺のスキルを直接聞くのって、冒険者の保護規定に触れることですよ。俺って犯罪を犯しましたか?」


「何言っているの、只の世間話よ・・・」


事前に雇った弁護士の言う通りに話した。

俺も勉強不足な部分があったので、弁護士に色々と教わっているので、使われっぱなしに成りたくない。

なんでも冒険者ハンターは、海外依頼を受けて成功すれば、半年間の依頼拒否が許されることに成っている。

国内の依頼も、3回連続で受けた場合も半年の依頼拒否が出来る。


なんでも20年前に、冒険者ハンターを扱き使って廃人にしたことで、人権保護の観点で法整備が成された。


この法の項目は、冒険者ハンターのメンバーにも余り知れ渡っていない法であった。


誰かがネットにアップしても、すぐに削除されていると弁護士が言っていた。

何人かの弁護士が共同で、訴えを起こしたが、知らない間にその訴えは取下げられたらしい。


それに一番の問題は、書類提出が複雑でギルドと労働省に異なった書類が必要。

その書類提出には、色々と問題があって、日本では受理されたことが無い。

その為にハンターメンバーに周知されない。

日本以外は簡略化されていて、日本冒険ハンターの七不思議と言われている。


この七不思議が出来たのは、当初労働省がギルドを管轄していたからだった。

海外のギルドから独立機関にしろと横槍が入った為で、労働省からギルドを担当した部署が独立。

その時のゴタゴタが今に至っている。


しかし、俺は大金を投じて詳しい弁護士5人に依頼。

もし書類が通れば、前例となってノウハウが確立して、俺には有利になるだろう。


今回の事件は俺も興味を持ったし、将来的に強敵に成りそうだったので、依頼を受けた。


これってダンジョンが俺に仕向けたことで無いだろかと、時たま思うことがある。


やはり、あの声のせいか・・・?



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