第85話猪野第2研究所




猪野第2研究所のゲートで、顔認証と眼球の虹彩認証こうさいにんしょうをパスしてようやく通行出来るようになった。

会社役員であっても必ず行なう決まりになっている。

大きなバッグは警備員が入念チェックして、ようやく俺の手元に戻った。


俺は断ったが俺付きの秘書が、大きなバッグを担いで案内してくれている。


「コンコン、社長お連れしました」


「入ってくれ」


「あ、おじさん久し振りです」


「マコト君も元気だったかね。4年ぶりだったね」


「おやじ、あいさつはそれぐらいで本題を話してよ」


「そうせかかすな、話はメタルⅢが大量に必要になってね10本を用意出来ないかね」


「このバッグに14本を持って来て正解だったかな?」


「どれどれ本当だな。気が利くね、君は」


途中で和也が、社長室に入ってきた。

ここで3人だけでの話し合いで、俺は猪野研究所が進めている大まかなプランを知った。

JRと提携して夜間の新幹線の線路で、テスト運行が成される段階まで来ていた。

メタルⅢの制御は至ってはシンプルな物だった。

魔石を使うことで、気力に頼らなくても浮かせることが実証されて、構造的に安価で浮かせて高速移動が可能らしい。


地上から10センチ浮かせるのに、直径1センチの球体で十分に浮かせられると、実験が証明されていた。

しかし車両の安定と移動と方向制御に3個が必要で、1両に三角形の位置に球体が配置されて使われることに成った。


車両前方の1個が方向制御を担当して、車両後方の2個で前進させる働きに成っている。

新幹線の車両編成が16両なら48個の球体が必要で、短い線路で浮力実験が行なわれているらしい。



浮かせる高さで、魔石の消費量も違ってくる為にベストの選択だったかも知れない。

猪野研究所だけで、乗り物を作ったり販売するには、人や財力と運行にあったての様々な政府関係との繋がり必要だった。

その為に〇〇重工で車両が製造されている。


地面に付かない事で摩擦抵抗も無くなる。有るのは空気抵抗のみだった。

600キロは出せると推定されているが、安全を見て400キロ運行をするらしい。

そして最大のメリットは騒音を出さないで移動出来ることだった。

これが成功すれば、リニア計画も無くなり従来の車両を変えることで、より速く運行出来るようになる。

そして線路のメンテも必要が無くなるのだ。


JR以外にも自動車会社にも、提携の話し合いが始まっているらしい。

何でもその自動車会社は、飛行機を製造するプランまで出しているらしい。

その飛行機製造会社を立ち上げる為に、幾つも有名な企業に共同企業としてやらないかと、密かに話し合っている最中だった。


そんな中で和也は、宇宙計画まで持ち出してやらせてくれと俺とおじさんに頼んできた。

なんでも子供の頃からの夢らしい。熱く語っている和也は、俺から見てもまぶしかった。

突拍子のない話だったが、ロケットと作るエンジン部が大幅に省略出来るのだから、考えても良いのではと思えてくる。

おじさんの意見は、取り合えずJRの件が成功してから考えると言っていた。

和也も成功を確信しているのだろう。成功後に新たに会合が持たれることになった。


俺は浮かぶ車かバイクを作るだけだと思っていたが、想像以上なことになってしまっている。

やはり研究者が考えることは違うのだ。




この猪野第2研究所は、多々良村と猪野研究所の中間点にあったので帰るのは楽だった。

でかい敷地を確保するには、辺ぴな所しかなかったのが実状。


帰りの途中で、大型スーパーで大量に従魔らの食料と飲み物を買って、重たいカートを押す羽目になった。



そして、我が家の駐車場に軽自動車を止めていると、向こうの道端でおばちゃん達が大きな声で話していた。

なんでも、上のダンジョンに若者2人が忍び込もうとして捕まったらしい。

どうも東京から来た若者らしく、おばちゃんはさも見ていたように話していた。


俺の軽自動車を追い越したパトカーは、その為に来たのかと納得してしまった。



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