第66話暗号




眠れない夜を明かして、俺のスマホのメールにあれが送られてきた。

【読んで】


涙が枯れるまで 


著者   宮城 眞一

発行所  〇〇出版 


成る程、これが暗号書なのか?

ネットで調べて見ると、絶版本であった。

古書店の検索に載っていなかった。


最初にもどり検索をあたると、電子書籍化されている。

マイナーな所で、余り人気のない本であっても電子書籍化している所であった。

5000円と原価価格の5倍近い価格だったが購入。


プリンターで印刷している途中で、インク切れになり、紙もわずかしかない。

スマホでプリンターを購入した村の電器店にかけてみた。


「おじさん、俺だよ・・・プリンターのインクと紙を購入したいんだ・・・あるだけ買うよ・・・今から行くよ」


久し振りに会ったので、2時間近く話し込んだ。

ここ最近の村の情報が聞けたので得をした気分だった。


高校を卒業した若者が、53人も来て冒険者として多々良ダンジョンで活躍しているそうだ。

何処で洩れたのか、多々良ダンジョンが最近のオークションの高額出品者だと情報が流れた。

今はギルドが削除を頻繁ひんぱんに行ない、信じる人は少ないが俺みたいな人間が、少ないがやって来てしまった。


村の村長や村役場の人間は、喜んで受入れていた。

そのせいで、住宅事情が大きく変わり、シェアハウスで共同生活する若者が増えた。

そして村役場が中心に、住宅建設を開始する動きが出ている。

それに伴ない、温泉ホテルの建設も持ち上がっているそうだ。


中には、1日ダンジョンツアーを行なう案まで出る始末だった。



俺は最近、多々良支部に行きダンジョンへ入る事をしないで、直接ダンジョンへ行っていたせいで全然知らなかった。



それと、村役場に足湯が出来たそうだ。そして村役場の奥に温泉施設が建設中らしい。

そして、足湯はお婆ちゃん達のおしゃべりの場になっている。


俺の所の温泉が使われるみたいだ。

そういえば役場から大きな封筒が送られていたな、開封もしてなかったがその件だったのか?




我が家に戻って、印刷の再開をする。

1冊全部が印刷し終わったので、もう1冊も印刷を行なう。


その間に暗号をネットも調べ倒した。念には念を入れてだ。

暗号書を使用した場合、暗号を解読するには、暗号書を持っていなければならない。

これがないと、暗号解読は不可能。

暗号書があれば、暗号をつくることも、暗号を翻訳することも、容易に行なえる。


この暗号書、数字でページ数を探し、次の数字で何番目の1文字を探しだす物だった。

結構シンプルな方法だ。

その結果「あなたに伝えたい」で俺は諦めた。クソ面倒くさい。


そして閃いたのだ。

従魔らを2手に別けて、暗号を翻訳することを競争させればいい。

報酬は俺の持っている魔石でいいだろう。


ようやく印刷された2冊分の本が出来た。

早速、従魔らを迎えに行こう。


スラの所にやって来たが、スラが親身に戦いを教えている。

コボルト相手に襲われかけた時に、横から体当たりして弱らせていた。

そんなスラに、あのような事は頼めない。


『親分、どうした』


「気になって見に来たよ」


『別の用事があったんでしょ』


「スラはそのまま戦いを教えてやってくれ」


そう言って別の従魔らの所へワープして向かった。


そして従魔らを引き連れて我が家に戻った。


「いいか、この紙の数字でページを見つける。次の数字を数えた文字を、こっちの紙に書く。分かったか」


『分かったよ』


そう言ってスライムチームは既に始めている。


『お前ら、合図を待たずに始めたな』


『合図のあの字もなかったよ』


リップチームは体がでかいので、集まって紙を見るのも厄介であった。

それで分担して行なうことにしたみたいだ。

数字を見て読み上げるのはアイで、聞いて探すのはツタで、書き上げるのはリップで頑張っている。

グフは手が無いので応援をする係らしい。



俺は役場が送った封筒の中身の書類を読んでいた。

温泉使用契約書が入っていた。

判子とサインをして渡すようにと書かれている。

仕方ない、サインして判子を押して、役場まで持って行くしかないだろう。


「用事で出かけてくるぞ」


そう言ったのに、従魔らは作業に集中している。

少し淋しい思いが心の中を通った。




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