第62話殺人犯




K国の金海市キメシに到着。

同行していた隊長も、ここのホテルで待たせて別れた。

隊長が居ても、足手まといでしか無い。


ここは雑踏とした所だった。車からクラクションが鳴り響き、そこを退けと言っているみたいだ。

ここに奴は潜んでいる事に間違いないらしい。

密かにベテランの冒険者ハンターが、2組が既に向かっている。

この2組も、その手の仕事を請け負っていて、他の仕事で来るのが遅くなったらしい。

国連ギルドの要請も、俺より早かったがその仕事のせいで、俺まで迷惑している。


アメリカチーム5名とロシアチーム6名で支援スキルが凄いと、その手の冒険者の中で有名だった。

俺は知らんけど。


ここに来るまでに、不穏な空気が漂っていた。

【黒空間】はLv100を超えたことで、地上でも使えるようになった。

従魔はまだ使えないが、使えそうな時がくるだろうと予想はしている。


ぶらぶらと歩く途中で、洋服店の前で足が止まった。

店先のショーウィンドウに飾られて、黒の長いコートが気に入った。

店に入り精神把握を使ってあのコートを購入。


試着室で【黒空間】から防具類と剛腕の刀をだして、防具類は着込んでからコートを着て隠す。

案の定、防具が鏡を見ても無くなった。

剛腕の刀もつかに紐を巻いてぶら下げる。

刀の先がコートの下からちらちら見えるが仕方ない。


これでいつでも戦える準備が整った。

全範囲探知を展開して調べる。あ、これはアメリカチームか5人の冒険者がかたまって移動している。

あれ、少し変だ。5人を尾行するように微かな存在がちらちらと見え隠れする。

もしかしてアイツか?

隠蔽で冒険者の存在を隠したが、本気で隠蔽を発動。

周りの人間は、俺の存在が急に消えたと思っただろう。

お構いナシに俊足を発動して距離を縮める。



ふわりと屋上に降り立つ。

1キロ先に奴の存在が微かに揺らいでいる。

目視で捕らえた。そして聴覚でも捕らえた。

音を出す度に、見えない存在がノイズが入ったように薄く一瞬だが見えた。

奴のスキルだが、音までは消せないようだ。



そして精神把握を奴に使ってみた。


え、何とロシアチームは既に殺した。

その時の高揚を奴はアメリカチームを見ながら思い出していた。



首を切り落とすシーンがスローモーションになり、地面に落ちるまで続いた。

その顔が女の顔で口を開けて何かをしゃべっている。

その声は聞こえないが、奴が笑う声だけが聞こえていた。

次のシーンは、でかい男性の背中に鉈のような物で何度も切裂いたシーンで、顔に赤い血が掛かり見るシーンが赤くなった。

そして振向いて、鉈のような物を投げた。

くるくる回って軌道を変えて、逃げる男の首を切り落とした。

そして体の向きを入替わるようにして、いつの間に手にしたナイフを低空から2本を投げた。

同時に襲う男女に、2本とも喉に突き刺さり、喉を押さえて数歩あるいたあとで倒れた。

そして遠くにいた男がサブマシンガンを2丁も持ったまま、乱射し続けているが何故か奴に当らない。

俺も弾丸が当ると思った瞬間に、すり抜けていた。

弾が尽きた頃には、男の頭は地面に落ちていた。


偉いものを見ていないが、イメージとして脳内に刻まれた。

奴は前回の奴と同様な生き物だと確信した。



事前に知らされた2組のチーム番号のアメリカチームに、メールで通訳した物を送った。

ロシアチームは全滅で、アメリカも奴が既に尾行していると伝えた。


アメリカチームの1人がメールを見たのだろう。

叫んで危険だと皆に知らせた。


奴は屋上からアメリカチームのいる路地裏の近くに、既に下りていたがその存在にもアメリカは気付いていない。

俺はコートの剛腕の刀を左手に持って、屋上にかがみ右手で何かの欠片を掴むと奴に向かって投げた。

急に突風が吹き軌道がずれた。奴の足元にそれが当り、奴もビックリして辺り確認している。


それでようやくアメリカチームが、存在に気付き逃げ出した。

奴は追いかけないで、俺の存在を探している。


隠蔽を発動しながらゆっくりと物陰に隠れて観察。

奴は焦っている。その気持ちは手に取るように分かる。

以前の奴もこんな思いだったのだろう。


雷撃野太刀を取り出して、右手に持った。

奴の心のスキが見えた。

俊足を2度にわたり発動して、奴の目の前で雷撃野太刀を振り斬った。

雷鳴が響く中で、目の前の奴は居無く10メートル先に黒焦げ死体が倒れていた。


なんだか体中に淡い光りが掛け巡った。

ステータスはLv111になっていた。

そうなんだ。Lv101以降、中々レベルアップがしなかった。

あの課長の申し入れを素直に聞いたのも、レベルアップが目的だったからだ。

前回の奴が言っていたことは正しかった。

これ程安易にレベルアップするとは思いもしなかった。

しかし奴みたいに、殺しを楽しみたいとは思わない。

そして、目の前の奴は100人でなく1000人近く殺していた。



スマホで隊長に電話する。


「俺です・・・はい・・・丸焦げで顔の識別も出来ない状態です・・・はい・・・分かりました」


しばらくして、20台の車がやってきた。

パトカーの赤い点灯が、ビルの壁を赤くして消えてを繰り返した。

スマホから位置確認したのだろう。

隊長の顔も見える。科学班なのか死体を調べている。

何かしゃべったが、心の声で「B型です犯人と同じ血液型ですね。詳しいことは検死結果を待たないと出ません。歯形は似てますね」



その検死結果が出るまでは、殺人容疑が俺に掛かるらしい。

ホテルで軟禁状態が2日も続いた。

検死結果では感電死で、DNA検査でも犯人で間違いないと確定して、俺は自由になった。

しかし俺は、ここに居てはいけない存在で、プライベートジェット機で急いで帰った。




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