第55話説教




兵庫地方ギルド内では、様々な支援スキルを持っている人間が大勢居るので、スキルを使わないようにしていた。

あの隊長みたいに、支援スキルがばれたことで、俺は警戒するようになった。

アメリカでは相手の目を見て、相手のステータスを読み取る奴が現れてから、1ヶ月が経っている。

下手するとこの日本にも居るのかも知れない。


ネットではスキルを使った瞬間に、感知するスキル持ちが居ると噂されている。

関東の冒険者だと、漠然とした噂でしかない。

そのせいなのか、関東では犯罪冒険者が捕まる率が、上がったと噂が絶えない。


駐車場を出て、30分後にコンビニに立ち寄った。

サンドイッチと牛乳を飲みながら、従魔らに必ず20階に集合だと念話で伝えた。

多々良村に戻ったのが14時32分で、そして急いで着替えてワープして来たのに、誰も居ない。


時間は14時50分で、集合時間は15時なのに、誰も居ない。

リップに腕時計を渡したので、知らない筈がない。


赤のダンジョンの20階で、1時間近く俺は待っていた。

階段前に、集合だと前もって伝えていたのに、中々集まらない。

仕方なく、ここのボスを斬り倒してしまった。

魔石しか残さなかったが、大切に収納。

従魔に倒させて、カードのドロップを期待していたのに、残念だ。

ここまで遅くなるとは、思ってもいなかった。



従魔らにリンクしてみると、28階層で戦っているらしい。

危ないのかと聞いたが、曖昧な返事しか返ってこない。


従魔らの意識に入り込むと、慣れないせいか乗り物酔いになるので入らないでいる。

今も念話でアイに話しかけた。


『あああ、ききとれな・・・です』


そんな演技までしてくる始末だ。

リップにいたっては、全然返事が返ってこない。


仕方ない。俺1人でも28階層へ行ってやる。

21階層で飛び回るトンボ相手に斬りまくり、魔石を回収しつつ突き進む。

以前の探索で最短ルートは確認済み、1時間も駆けまわり次の階段に到着。

45個の魔石を手に入れたが、カードはやはりドロップしなかった。


22階層は、赤いハリネズミ相手に飛んでくる無数の針を、盾で防ぎ、撃ち尽くした赤いハリネズミにとどめを刺した。

こいつは思っていた以上に手間がかかる。

今度は盾で防いで【黒球】を放ち倒した。


この赤いハリネズミ。

目だけ見ればクルリとした可愛い目をしているのに、戦いに時間だけが浪費してしまう。

ここも21階層と同じく、全範囲探知に規制がかかり10メートル内しか探知できない。

スマホの地図アプリを確認しつつ、右の通路へ入って行く。


そこは一本の長い通路が続き、ここでも針の攻撃がやまない。

盾で防ぎ【黒球】を連発で放ち、ようやく倒した。


警戒しながら進むと階段が見えてきた。

この階層で費やした時間は6時間。

地上へワープして露天風呂に浸かることにする。


露天風呂から従魔を確認すると、ようやく25階層まで上がって来ている。

そして従魔らが、ようやく念話で話し掛けてきた。


『リップがいけないんだ。いくら魔石の食い放題だからって、親分の呼び出しに答えないのはまずいよな・・・』


『おれっちだけが悪者か?それならこのカードは、おれっちが活躍して手に入れたって言うぜ』


『そんな争いは無意味な事だ。もっと速く走る事に専念するの方がよっぽどよいぞ』


『またまた説教か、アイの小言もあきたよ』


『お前らはいいよな、グフの背中に乗って楽しているのに』


『エーー!リップがいいだしたことが原因だよね』


『そうだ、そうだ』


どうも内輪もめの最中で、段々と移動スピードが落ちだした。


「ごちゃごちゃ言わずに上にはやく来い」


大声で念話で言ってやった。


『あああ、やっぱり怒ってるよ』


長く浸かった風呂から出て、冷蔵庫から冷えたウーロン茶をごくごくと飲み干した。

温かい体を冷まし、夜食のカップ麺を食べて準備が完了。

ステータスオープンから始まりダンジョンワープを表示。

20階の階段前へ戻って来た。


従魔の位置は24階。

ベッド一式を取り出して、早速潜り込んで寝てしまう。


『親分、起きて。親分』


スラが必死に揺らして、俺はようやく目を覚ました。

腕時計は3時21分。

2時間もかけて説教をし続ける。


『主、申し訳ありませぬ』


『親分、ごめんです』


『そうだ、そうだ』


『ごめんです』



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