第51話ワープ




猪野からの連絡で、軽自動車(4WD)で六甲の道を走らせていた。

左窓から見える山の何処かに、従魔らが戦っていると思うと不思議な気分だ。

強く念じると従魔眼線で、戦いが見ることも可能で中々使い勝手がいい。


あれ?駐車スペースに外車の高級車が止まっている。

その隣には、奴の型落ちの車が止まっているので、あの車が会わせたい人の車なのか?

まだ空いているスペースに、当てないように止めると降りた。

砂利道を歩いてゆくと、奴の家が見えてきた。


玄関先でインターホンのボタンを押すと、ドカドカと階段を下りる音がしてドアが急に開く。


「悪いな、会わせたい人も上で待っているよ」


「俺の知り合いか?焦らさずに言えよ」


「上がればすぐに分かるよ」


「何をもったいぶっている。俺を驚かしても何も出ないぞ」


「はやく上がれよ」


仕方なく上がり、ドアを開けると女性が座っていて振り返った。

桂瞳かつらひとみがそこに座っていた。


俺を見て、微笑んでいる。

俺は心臓を掴まれたように苦しくなった。

あのみじめな思い出が、昨日のように次々と思い出す。

猪野の奴、気を利かした積もりだが余計なお世話だった。

俺はあの過去を忘れたかった。


「何を突っ立っている。お前が入らないと俺も入れないだろ」


仕方なく入って彼女の前にある椅子を、うしろに引いて距離を取って座るしかなかった。

そんな行動にうつむいた彼女は、少し苦笑いをして話し出した。


「わたしからのメールや電話を何故拒否するの、わたしがどれだけ心配したか知らないで」


「俺とお前とは住む世界が違う。幼い時とは違うことが分からないのか?」


「まこと、それは違うだろ。お前は強くなった筈だ。だからいい訳にならないぞ」


「何処まで教えた」


「俺が知っている全部だ。お前を見ていて心配だったんだ。お前も自分の殻から出る時期が来たんだ」


「余計なことをして、秘密だったろ。それでなくても危険な目にあって死にかけたのに」


つい余計なことまで話してしまった。秘密をばらされてついカッとなった。


「死にかけた!それはどうしてなの・・・わたしに嘘、偽りなく話して」


「俺も聞いてないぞ。俺まで嘘をついていたのか?」


ダンジョン内以外の地上の出来事を話した。

【JIBA】の組織との係わりも包み隠さずに話して、少しは肩の荷がおりた気分だった。


「それは問題あるだろう。しかし【JIBA】の組織は秘密が多いからな何処の組織と繋がっているか、知らないと握り潰される可能性もあるぞ」


「マスコミにリークするのはダメなの、わたしはマスコミに知り合いが居るわよ」


「機密情報に触れて難しいだろう。親父の知り合いにその手の関係に詳しい人が居るので聞いてみるよ」


「すまないが頼むよ」


1時間近く話して彼女は帰って行ったが、俺は小言をねちねちと言ってようやく気が済んだ。


「お前は、何時から小姑みないな性格になったんだ」


「お前が余計なことをするからだ」


俺は彼女への気持ちをスッパリと切ったのに、何故今更っと頭の中で堂々巡りにおちいり答えが出ない。

俺は魔石2個をテーブルの上に置いて、猪野が止めるのも聞かずに帰ってしまった。


軽自動車を運転中に従魔から至急来てくれと、念話が送られ軽自動車をひと気のない小道に入りわきに停車。

ステータスオープンから始まりダンジョンワープを表示。

従魔が居る10階にワープする。


『親分、珍しいカードだよ。ピーとキーの黄金コンビが手に入れたんだよ』


手で受取って見た。


ワープ


行ったことがある場所へMPの半分を使用して行ける。


「え!ワープだと」

どんな魔物から手に入れた。


『ここのコボスだったよなキー』


『すばしこくてずる賢い、二足歩行するネズミだったよ。急に消えてすぐにうしろから攻撃を仕掛けてきたよ』


『そうそうおいらの攻撃も消えてかわすからやっかいだったよ』


『シッポを伸ばして締め付けるんだ』


『それを、おいらが助けたんだよ』


なんと言うか、本当にずる賢いネズミだったみたいだ。

早速、カードに念じてみる。


ガクッと体に衝撃がきて、ただ立ち尽くしてようやく開放。

俺の知識に確りと使用方法が刻み込まれた。

やはり支援スキルで、知っている場所なら我が家から、東京タワーの展望台へ一瞬で行けるみたいだ。

ただ例外として地上からダンジョンへワープで行くことは出来ない。

何か地上とダンジョンの境に目に見えない何かが邪魔している。

しかし俺にはダンジョンワープが有るので、邪魔されずに何処へでも行ける。


このカードは、俺が魔物を倒しても中々ドロップしない。

それ程の激レアなカードだ。

前の戦いでこれがあれば、危険だと感じた時点で逃げ出せる。

それ程のカードだったので、俺はスライムらに感謝。


俺はピーとキーに高級魔石を1つ1つあげると、ピーもキーも『おいしい、おいしい』と食べている。

そんなスライムをなでてやって褒めてやると、ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。



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