第47話心理戦




うっそうと茂った山の中、背負いバッグの中身をあさるが、寝袋と携帯食に水と地図とLEDランプだけ。

拳銃が入ってないか探すが入っていない。

こんな場面に放り込んでまともな武器を寄越さない。

本当にけしからん連中だ。俺の命をなんと思っているんだ。

ここはダンジョンと違って地上で、腰のナイフと背中の剛腕の刀でどう戦えと言うのだ。

相手は銃火器を持っているのに、どう考えても不利でそれもプロ中のプロらしい。

今回の事は弁護士を交えて相談するしかない。


「なんと、よからぬ殺気が漂っている」


全範囲探知で調べてみたが、姿は見えず殺気のみが存在。

これはブラフか?相当心理戦の出来る奴かも知れない。

俺の罠探知で罠の位置は、既にばれているのに勝った気でもいるのか?。


あ、誘導弾が飛んでくる。着弾する瞬間に俊足を発動してかわす。

後方で大爆発を起こして、複数の木が燃え出した。

俊足が支援スキルで助かった。ただ単にかわしただけでは追尾されて死んでいただろう。

支援スキルの隠蔽を発動。


わずかに殺気が揺らいでいる。俺の存在が見えなくなったことで動揺している。

ここは動かずとどまる作戦にでる。

この手の隠密行動は、先に動いた方が負けと決まっている。

1時間が経過。10時間が経過して森は闇になっていた。


空は雲によって月や星は無く、闇の世界であった。



俺は俊足を幾度も発動して、殺気あった場所へ一気に現れ、人を剛腕の刀で斬った。

しかし人形であったと気付き、俊足で元いた場所に戻り、全範囲探知で再度探し続ける。

あの瞬間に隠蔽が解除されている。

俺の幻魔を発動したのに、上手くかわされ続いている。

目も合うこともなく、俺のスキルを知っているのか?かわすタイミングが良過ぎる。


真後ろに現れたアイツに、体を回転させて蹴り回しを当てる。

重みのある蹴りが腹に決まり、木に背中ごとぶつかりバキッと音がした。

AGIの数値が上がったせいで、動きがはやくなっている。

そのまま駆け出し、剛腕の刀を大きく振りかぶり斬った。

木がきしみ倒れるが、アイツは既に居なかった。


「真上か!」


咄嗟とっさに剛腕の刀を真上に突き刺すが、刀の先にチョコンと片足で止まり笑っている。

剛腕の刀が動かない。何故動かない。


「お前はよくやったよ。こんなに梃子摺てこずったのは初めてだ」


俺は目を離せないでいる。


「俺様は、レベル98なんだ。何故こんなに高いか知っているか?冒険者を殺しているからだ。いくら高いレベルの奴も俺様の支援スキルの前では命乞いをするんだ。たまらなく楽しくって気持ちがいい」


「あんたのその考えは狂ってるぞ」


「狂っているのか?俺様がそんなことを言われるのは、クソ親父以来だぜハハハハ。お前面白いな、笑いがとまらねえぜ」


「あんたは、後悔してないのか?」


「俺様の辞書には、殺すの文字しか存在しない。分かるか殺し殺しつくす快感を味わうと、俺様にはこれしか無いと心底思うね」


「あんたは、クソ親父と言ったが本当は、ほめて欲しかったんだろ。殺すことで逃げていたんだろ」


「俺様が逃げた。そんな筈が・・・」


俺の時間稼ぎを聞いている。俺自身にようやく自己催眠が掛かりある行為を無意識にさせた。

その瞬間に意識が飛び、崩れるように倒れた。


そいつは、ストンと地面に降りて疑うように見ていた。

そしてにやりと笑いながら近づき、顔を覗き込んでくる。


「え!何故だ。そんな馬鹿な」


そいつはそのままうつ伏せに倒れた。



しばらくして俺は目覚めた。

起き上がると、そいつの鼻と口に手を当てて息をしていないことを確認。

手の脈も触ってみたが、脈はなかった。



こいつのスキルは、妖怪ばなしに出てくる【さとり】と同じだ。

【さとり】は山中で人の前に突然現れて、「お前は今、恐いと思っただろう」などと人の考えていることを言い当てる。

そしてひるんだスキを見て殺して食らう妖怪。

そして【さとり】にも弱点があった。

突然小石が落ちてきたり、思わぬことが起きた時に、驚き逃げて行く臆病な妖怪でもあった。


だから俺はダンジョンで訓練の一環に、スラの毒針を真上に投げて無意識にかわす訓練。

たまに当たり、しばらく痺れることもあったが、長い間の訓練ですっかり毒針に当たっても痺れない体に成っていた。

しかし、毒に強い動物でもすぐに死ぬレベルの毒針であった。

あいつの体には毒針が刺さっているだろう。


自己催眠でその訓練を無意識にさせて、一か八かの賭けだった。

今でも防具内側に毒針を仕込んでいる。


早速、全範囲探知でこいつの体を調べた。

こいつはなんて汚い奴だ。肛門の中に隠しやがった。

細い枝で、どうにか取れないか必死にやっていると、何処からか隊長と数人の隊員が現れ変な顔で見ていた。


「仕方ないだろ。コイツが尻の穴に隠している物を取ろうとしてたのに、もう俺は知らん勝手に取ってくれ」


隊長はゴム手ぶくろをすると、何も躊躇ちゅうちょすることもなく指を突っ込み取り出していた。


俺はどうにか大型ヘリに乗り込み、数人の隊員を残して大型ヘリは飛び立った。


「隊長、本物で間違いありません」


「すぐに本部に連絡しろ」


「了解」


「今回の件は、相当な報酬が振り込まれるから期待してくれ」



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