第40話突然の竜巻




前方には、フロアの壁が遠くまで広がっていた。

どれほど広いのか見当がつかない。


空弾を使って空中高く浮かんで見た風景だった。


沢山の魔物が居ることは分かっている。

あそこに魔物の群れが100近くも見えていて、その奥にも群れがいる。

ここは進むしかないだろう。

俺の勘がここには、何かが有ると知らせているからだ。


「お前達、敵の数は万を越えている。充分に気を付けて行かないと大怪我をするからな」


『親分、任せてくれよ。おいらには虎穴こけつがあるから』


「虎穴ってなんなんだ」


『おいらの刀の名だよ。(虎穴に入らずんば虎子こじを得ず)って危険を冒さなければ、成功することはできない、というたとえだよ』


「そんな難しい言葉を何故で知ったんだ」


『何を言っているんだよ、親分。この知識は親分の深層心理から得た知識だよ』


「そんなバカな、俺が意識していない所で無意識の心理が繋がっているのか?」


『そうだよ。おいら以外も同じだよ』


『親分の嘘もすぐに見破れるから、嘘をいても無駄だよ』


口に出さなかったことも分かっているのか?今も同じく知られているのか・・・

俺はすっかり忘れているが、この言葉も聞いたような気がする。

仕方ない繋がりで、もう諦めるしかないようだ。

従魔らとは今後も仲間として戦ってゆくのだから。


「充分に気を付けてゆくぞ」


なにやら黒い肌のゴブリンがでかい棍棒を振り回してやってくる。その数50体。

キーの雷撃が1体を直撃して燃やし尽くしているが、周りのゴブリンは感電してビックリした状態で耐えていた。

普通なら同じように燃えている筈だった。

あの黒い肌は魔法耐性があるのかも知れない。

スラの針攻撃も跳ね返していて、強度も有るみたいで中々手強そうだ。


スラは針攻撃を跳ね返されたことが気に入らないようで、炸裂弾を作り出し発射。

見事に命中して、複数を空中にばらばらにして散らかしている。

スラに顔があったなら、笑っているだろう。

リップも負けじと撃ち出している。

俺の【黒球】は弾かれることもなく数を減らしている。


俺の危険探知が鳴り響く。

右手に空弾を作りその危険を探し待ち構えると、危険の気配が猛スピードで近づいてきた。

空弾で仕留めようと放つ瞬間に、右手が肩からスパッと切られてゆく瞬間をただ呆然と観ていた。

何か映画を観ているようで、痛みも感じない。

凄い爆風が襲い空中高く、一瞬で体を持っていかれてしまう。

竜巻にでも巻き込まれたように上がり、あらがうことも出来ない。

ただ1つツタだけが地面にしっかりと根づき、飛ばされていない事は見えていた。



地面に思い切り叩き付けられて、顔面から血が流れて目が痛い。

更に右肩に激痛が見舞われながら、左手で中級ポーションを取り出して右肩に掛けた。

徐々に右手が再生される工程を、スローモーションで見ていた。

再生された右手を握っては開きを繰り返して動く事を確認。

あの無くなった右手が嘘のように再生されて、涙が自然と出ていた。

残った液を顔面に掛けて、ようやく痛みが治まる。


そうだ、慌てて従魔らを探すが俺の周りには従魔は居なかった。


このフロアに入った瞬間に、全範囲探知が50メートル内に制限されていたのが、今は全然機能しなくなった。

あの攻撃が制限を掛けたのか?疑問だけが残る。

あの時の危険探知もわずかしか探知していなかった。通常なら早く正確に探知していたのに悔しい。

しかしもっと危険な存在なら、もっと早く分かったかもしれないが、イヤそんなもしもの話はよそう。


双眼鏡を取り出して、遠くまで見ていたが従魔らしき姿は見えない。

念話も通じない状態だが、人には分からない絆の繋がりで、生きていると実感だけがあった。


右手に剛腕の刀を握り、左手には空弾を保持。

両足の空弾のみで浮上して、従魔を探そうと決めた。


そしてグリフォンの群れと遭遇して、空弾で10羽を仕留めて、赤いスジで9羽を斬り捨てた。

もう一度、斜め右下に斬り付けて、残りの5羽を斬り落とした積もりだったが、3羽が上手くかわした。

2羽と1羽に分かれて、挟み撃ちにして風の刃を放ってきた。

2羽の攻撃は空弾で飛散させて、もう一方は目の前で剛腕の刀で斬りわけた。

そして刀に発生した赤いスジは、1羽を胴体ごと斬り裂き、1羽をそのまま落下させた。

1羽は猛然と突っ込んできたが、剛腕の刀で首を切断。

残りの1羽は下から襲い掛かるが、右足の空弾を蹴り放ち粉々に飛散。

空弾が1つになり急に高度が下がりだしたので、バランスを取りながらそのまま降下して着地。


着地したついでに魔石を回収してゆく、「あ!カードだ」

カードにはグリフォンの絵が描かれている。


グリフォン【風】


HP200

MP200


風の刃 突風


カードを見詰めて念じて放り投げる。

現れたグリフォンは馬ぐらいの大きさで「キーキッキーキッ」と鳴いている。

俺との繋がりが無いので、どうやら話せないみたいだ。


背中をさすりながら、乗っても良いかと念じる。

「キーキッキーキッ」と鳴き乗ってもいいと言っている気がする。

ガバッと背中に乗っても暴れる訳でもなく、おとなしくしている。


「お前の名は、グリフォンから2文字を取ってグフだ」


どうやら喜んでいるようだ。


「グフ、仲間を探す為、飛べ!」


翼を大きく羽ばたき、空中高く舞うグフに指をさして行き先を示す。


「キーキッ」と鳴き、示す方へ凄いスピードで飛んでゆく。

これで仲間が早く見つけ出せるのか・・・?



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