第35話帰れない
朝早くから村役場の鈴木課長が、我が家へ訪問してきた。
「本当に佐藤さんから聞かされた時は驚いたよ。それで君には悪いが温泉を使わせて貰えないかな?」
「それなら我が家の温泉が、使えなくならなければ大丈夫ですよ。温泉がどれだけ使用出来るか聞いていないのであとで確認しておきます」
「それなら聞いているから、充分な量があると言っていたよ」
「分かりました。課長の頼みなので使用してください」
「それはありがたい。佐藤さんに渡した金は温泉使用料で落とすので気にしなくていいよ」
「そう言うのならよろしくお願いします」
鈴木課長とは1時間以上も話し込んでしまった。
全範囲探知で誠黒ダンジョン付近を調べてみた。
道路は既に整備され山奥で似つかわしくない建物を建築中。
人の出入りも多く、何台もトラックや車が走り回っている。
ダンジョンの穴には警備の人が5人も居る。
その中の4人は自動小銃を構えて警戒中。
1人だけが計器を見て、スマホで話している。
どうやらギルドはこのダンジョンを警戒しているのか?
潜った経験から言うと、異常であることは感覚でも分かるレベルで、魔物が溢れだす程の危険は感じられなかった。
しかし今更、思い出したが3階層は広大過ぎた。
多々良ダンジョンに当たる広さで、ダンジョンの穴は別次元と繋がっていると考えるしかない。
過去のネットでもそんな学説を主張した学者を見た経験があった。
そんな風に学会で罵られて、学会を去った学者の名は覚えていない。
下の名が
軽自動車に乗り込んで、山道をひた走り下に向かってカーブを曲がる。
3時間掛けてやって来たのが、旧六甲牧場があった近くの個人研究所。
そこの息子の
「久し振りだな」
「逃げ出して、穴にこもりきっていたからな」
「お前とはメールのやり取りだけで、実際に会えるまで心配していたよ」
「結構、ダンジョンが忙しくなって・・・そして楽しんだ」
「なんだよ、相談があったんだろ」
「実はこれなんだ」
背負いバッグからあの赤い魔石と黒い魔石を取り出し、和也の手に直接渡した。
「多々良ダンジョンの近くに、新しいダンジョンが見つかり、そこで手に入れた魔石だ。上級魔石より上の魔石だと思っている。それと黒魔石だ」
「上級魔石が100万円なら、これは1億円以上だと言いたいのか?それに黒なんて」
「俺は赤には、それだけの価値があると確信している。ただ確証が欲しくてここまで来たんだ。黒もそれ以上に興味深い研究材料だと思うぞ」
「俺も研究者の端くれだ。分かったらメールで知らせるよ」
短い間の学友だが、同じ苦汁を舐めた仲だ。
「この事は内緒にして欲しい。そしてその魔石はお前の研究材料にしてくれ」
「え!もしかすると1億円をくれるのか?」
「まだ沢山持っているんだ。ギルドに提出していないだけだよ」
「チョッと待っててくれ」
PCを操作して、探しているみたいだ。
「新しいダンジョンは、公式に発表していないな。何か問題でもあるのか?」
「これは聞いた話だが、ダンジョン数値が高いって村役場の人が聞いたらしい」
「それは本当か?・・・分かった慎重に行動をするよ」
「悪いが頼むよ」
俺は別れを告げて、多々良村へ戻ることにする。
ここも新しい道が出来て、迷いそうになったが昔が懐かしい。
あと1時間で着く一本道で、大勢の警察官が道を塞いでいる。
装甲車が2台も止まり、道を封鎖しているのでこの軽自動車では、中央突破すら出来ないし絶対しない。
「ここからは進入禁止です。引き返して下さい」
「この先の多々良村に住んでいる者です。運転免許証もほら住所が書かれてます」
「川村さんどうしますか?」
「例外は認められない。上からの指示だ」
「そう言う事なので引き返して下さい」
どうも無理みたいで引き返して、スマホで近場の泊まれる所をようやく確保。
そのビジネスホテルのフロントで事情を説明して、分かっている範囲で教えてもらった。
ここに泊まっている工事関係者の話だと、帰る途中で銃声が鳴り響いたらしい。
ますます混乱する俺は、スマホで鈴木課長に電話をしてみた。
中々繋がらない、そしてようやく繋がる。
「多々良で何が起きたのですか?・・・はい・・・道が封鎖されて帰れない状態です・・・はい・・・お願いします」
どうやら外国人があのダンジョンを襲ったと知らされた。
それも50人ぐらいの人数での襲撃に、村はパニックだと鈴木課長は言っていた。
支援スキルの隊員の機転でどうにかダンジョン内の侵入は防いだが、山の中には逃げた人間がいるみたいだ。
村役場が緊急避難場所の為に、今も鈴木課長は忙しいと言っていた。
丁度フロント前のテレビでもそのニュースが流れていた。
そして猪野和也から電話が掛かってきたが、大丈夫だと言い村へ帰れないことを伝えた。
本当にいつ帰れるんだ。
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