第26話山に問題あり
緑の木が生えた山の中を、道なき道を掻き分けてゆく俺と温泉発掘業者の佐藤さん。
「ここです。どうですか掘れますか?」
「掘れますが、温泉が出るのかという調査もできます。その方が確率が上がりますよ」
「ボーリング掘削で掘って下さい」
「ボーリング掘削費用(1,000円/m)約100万円ですがいいですか?」
「それでお願いします。支払いは冒険者カードで一括で支払います」
「自治体への届け出や、許認可の費用もかかりますがどうしますか?」
「それも含めて請求して下さい」
「もし温泉が出た場合は、揚水ポンプ設置費用が約30万円と家までのパイプラインが目測ですが約100万円かかります」
「その時もお願いします。温泉が出た時点で開始して下さい。ダンジョンに潜っているかも知れませんので確認は不要です」
「分かりました。明日から届け出を行います。認可が下りたら早速ボーリング掘削を行ないます」
「宜しくお願いします」
山を下りながら、俺には確信があった。
罠探知の練習と体力をつける為、重いバッグを背負い山歩きをしている最中にあの下に温泉のある事に気付いた。
だから出ることはほぼ確定。
のんびりと露天の温泉に浸かれるなんて、想像するだけで癒される。
それと隣村の山は、金が取れる山だ。
相当な量が取れそうだが、これには
何故、金があると分かったと追及されるのは、分かり切っていて取り合えず保留にするしかない。
家の前で温泉発掘業者の佐藤さんを見送る。
色々と知らないことを教えて貰った。
法律上は摂氏25度以上が「温泉」とされ、それ以下の温度でも、含まれている成分で温泉と定義される。
ちなみに温かくもなく、成分も法的基準に達さないものは「
しばしば「湯の花」と呼ばれるぶよぶよした白色の浮遊物がある。俺はゴミが多いなと思っていたが湯に含まれる薬用成分だと聞かされ驚く。
そして佐藤さんは、温泉成分をあれこれと言っていたが、俺には難しい内容だったので覚えていない。
隣の改修中の家に入ると、改修途中で散らかっている。
今日は工事の人達は休みで、はがされた板はもろく腐っている。
原因は雨漏りで、日本瓦は取り外されてスレート瓦に置き換わっている。
中に入ると思っていた以上に広く、日差しを遮る物も無いので明るい。
そして裏庭には露天風呂が作りかけている。
横幅は1メートル半で奥行は2メートルで、綺麗な岩が置かれている。
完成していないが案外贅沢な作りだ。
家に帰ると山歩きの準備をする。
丈夫な背負いバックは30キロもするが、腰と足に力を入れて立ち上がる。
登山靴で地面をしっかり踏ん張り、傾斜の山を登って行く。
2時間も歩き続ければ、額から汗がにじみ出ている。
タオルで拭きながら、今は全範囲探知と罠探知で探知中。
そして今日は、まだ足を踏み入れていない山に挑戦。
頂上では見晴らしがいい。
「そろそろ下山するか?」
バックの重みが、下山にはキツイ。
重心が後ろに引張られる分、重心バランスが必要。
そして下山ルートを遠回りした結果。
新たな発見をする。
多々良ダンジョンから10キロ離れた所で、新たなダンジョンを発見。
枯れた草木で隠されていたが、俺の探知によってしっかりと位置が分かっていた。
スマホでダンジョン発見センターに通報。
現地に止まり、ダンジョン監視を頼まれる。
絶対に入るなときつく言われてしまう。
新しいダンジョンを発見した場合、ダンジョン発見センターに通報するのが基本。
そして通報者は1000万円の懸賞金が貰える。
そして無断で入るとややこしい事になる場合が多い。
たまに誤報もあるが、罰せられる事はない。
入って確かめる事を、国が禁じているからだ。
夕方頃にスマホで確認された位置に、集団がやってきた。
「君が通報者の青柳君だね」
「はい、そうです」
「冒険者カードの提示を頼める」
腰のポーチから冒険者カードを取り出して渡す。
「そうか君だったのか?」
「隊長!ダンジョンに間違いありません」
「おいお前ら、青柳君を村まで送るように」
「了解しました!」
俺に2人の隊員が付けられ、急き立てられるように山を下りてゆく。
隊員は無口で、決して話しかけられる雰囲気でなかった。
隊員のライトを頼りに、ようやく村が見えてきた。
時間は19時を過ぎている。
「ここで良いですよ」
「イヤ、家まで送る」
仕方なく家に行く途中で、村役場の窓から明かりが照らされている。
17時で終了の村役場から、鈴木課長が出てきて俺と出くわす。
「青柳君、君だったのか通報者は」
「はい、そうです」
「それなら、村役場まで来てくれないか?」
「そう言う訳なので失礼します」
隊員は黙って見ている。
それから村役場で、1時間もあれこれ聞かれる羽目になる。
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