第11話神戸へ向かう




何やら耳元で変な音がしている。

目を覚ますと俺の頭のすぐ近くで、リップの細い根とツタのツルとで互いを押し合っている。

どうやらツタのツルが力強く、細い根は不利な状況。


「何をやっている」


互いの動きがピタと止まると、リップの花がゆっくりと俺を見下ろしている。

どうやら遊びの積もりで互いに力比べをしていたらしい。


俺は起き上がり、ダンジョンに潜って4日目。

5階層での戦いもやめる時期が近い。

村の冒険者が昼過ぎには、5階層に泊まる為来る恐れがある。

それにソロでの活動が4日も続くと、そろそろ限界かも知れない。

1日早いが帰るか?


そう思っていると、ピーとキーのコンビが帰って来た。

そしてプイとカードを吐き出す。

そのカードを1枚確認しては、カードホルダーに収納。

それを繰り返していると、又も大きな木の実カードが増えた。

今では6枚にもなった大きな木の実カード。


もしかして、このカードを10枚集まると、どうなるのだろう。

しかしオークションに出したい気持ちがつよい。

1枚で5000万円以上確実に手に入るのだ。

2枚を出品して様子見だ。

合計1億円。俺にとって夢の金額で宝くじに当たったのと同じだ。

そう思った瞬間、今直ぐにも地上に出ていきたい欲望が・・・



エアーマットの空気を抜き、背負いバッグに詰め込み立ち上がった。


「今日は、地上出口まで行くぞー。ピーは先頭でリップとツタは俺を守れ」


ピーが階段を跳びはねて上がると、キーも続いて跳ね上がってゆく。


「スラもライムも続いて行け」


ぞろぞろと階段を上がり、進むともう既に戦闘が始まっている。

見ていて安心出来る戦い。

魔物が遠距離攻撃されて倒される。

相手の攻撃がないまま突き進む最強コンビ。


俺はその後をついて行き、地面に落ちたカードを回収。

3階層に上がった時には、大きな木の実を又手に入れることになった。


「ここからは、スラとライムが先頭で戦え。ピーとキーは俺の前で待機だ」


おとなしくメンバー交代。

コボルトの弓持ちが弓を飛ばす前に、スラの攻撃がヒット。

口から泡を吹き出し倒れるコボルト。

ライムの攻撃は酷いの一言。

体が溶かされるとは、どんな痛みを感じながら倒れたのだろう。

想像するだけで痛そうで耐えられない。


この階層で、剣カード2枚と槍カード1枚そして弓矢カード2枚を手に入れた。


次の2階層は植物コンビが先頭。

行く先々で干からびたゴブリンを目にする羽目になる。

ダンジョンに吸収されるまで、それは続き干からびた死体の下からカードを回収。

酷い場合は、天井からツルに締め上げられているゴブリンを見る羽目にもなった。

弓矢も当たる寸前にツルに捕まりへし折られている。


そして1階層は好きな様に戦わせている。

すると後2枚でスライムカードが10枚になる、カードホルダーに収納した時に体が光った。

戦闘していなかった俺がレベルアップするとは、もしかして従魔が倒した経験値が俺にも一部入っていたのか?

そうとしか考えられない。

ステータスを見たが新たなスキルはなかった。

カードマスターで新たな物が習得できたかもと期待したが、そんなにうまい話はないみたいだ。


そしてようやく地上出口付近に到着。

しかし時間は21時を過ぎている、余りにも従魔任せにし過ぎた結果だ。

支部で機械にカードを読まさないと、ここからは離れることは出来ない。

それに罰金を払うのも嫌なのでここで泊まるか?


寝る為の準備をして、スライムらはカードに戻す。

念の為、ツタだけを残した。

天井に広がるツタを見ても、魔物だとは分からないだろう。

そんなことを思いながら、天井のツタをぼんやり見つつ就寝。



スマホの音で目を覚ますと、急いでエアーマットを回収。

早く地上にいく準備を済ませる。

ツタをカードを戻し、急いで階段を上りギルド支部に入って行く。


「なんだい、早い時間に帰ってきたね」


「用事を思い出したので、急いで帰って来ました」


「そうなのかい、無事に帰って来てよかったね」


俺は機械にカードを読ますと、支部を出て行き家に急いで帰る。

防具を手入れすることもなく、脱ぎ捨てると床に放置。

キッチンに行き冷蔵庫の炭酸水をゴクゴクと全部飲み干す。

一息つくと風呂場へ行き服を脱ぎ捨てて、シャワーで頭と体を洗う。

やはり泡立ちが良くなく、2回も洗う羽目になる。


服を着ると、背負いバッグを掴んで急いで軽自動車に乗り込んだ。

行き先はここから近い、神戸の地方ギルド支部。

狭い道をカーブ手前で減速、直線になるとスピードを上げてしまう。

俺の頭の中は、オークション出品の事しか考えていない。


本当は多々良支部でもオークション手続きは出来るが、手続きをした瞬間からこの村に知れ渡ってしまう。

いくら内密にお願いしても、無理だと分かっている。

なのでここから離れた有名な神戸へ向かって軽自動車を走らせている。

オークションの原則は、出品者・落札者ともに秘密である事。

オークション会場でも番号のみで出品落札が行なわれる。

もちろん落札はリモートでも行なわれるらしい。



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