儚きが真実
昔、お父さんに言われた。
「長男でよく頑張ってるな。姉ちゃんでも居たら良かったな。」
姉ちゃんより兄ちゃんのがいいなんて答えたっけ。
もし姉ちゃんがいたら
こんな俺を叱ってくれたかな。
アカリと2人きりなんて久しぶりな気がする。
恋人なのに変だよな。
普通にご飯食べて店を見てまわって。
普通にデートした。
夜の公園でブランコに座る。公園は2つに別れていて、半分は遊具半分は広場になっている。野球だって出来る。俺の練習してた公園。
「俺ね野球選手になりたかったんだ。そこで毎日練習してた。」
アカリは黙りながらも俺の目を見て聞いてくれた。暗くてよく見えないけど絶対に見てくれてた。だから昔話を始めた。
野球選手になりたくてお父さんに教わったこと。才能に限界を感じたこと。警察にお世話になったこと。そして。
そして、警察に事情聴取されてる時に姉の存在をチラつかされた。なんで言わないの?庇ってるの?姉ちゃんから薬もらったんだろ?
うちに姉なんて居ない。それどころか俺が1番上だ。長男だ。両親どころか親戚からもそう言われてきた。隠し子なんていないだろう。
次の日疑いが晴れて両親はとても心配してくれていた。騒ぎが落ち着いて冬休み手前くらいの頃。両親にこの疑問を投げつけた。
俺は2人の長男で間違いない。ただ。2人は再婚だった。母さんと父さんは学生の時付き合ってたみたいだけど、母さんの両親の仕事の関係で遠くに行ってしまったらしい。その後に前の奥さんと結婚。そして母さんとの再会で母さんを選んでしまったらしい。形からすると不倫愛からの略奪結婚。ただ2人を運命だって1番思ってくれたのは前の奥さんみたい。父さんと母さんと同級生で学生の時から2人を見てたから自分の事のように嬉しいって言ってくれたんだって。
しかもそれだけじゃなくて、苗字もそのままにして。だから戸籍上娘さんも父さんの娘になるんだって。だから俺は1回も会ったことないけど姉ちゃんがいるんだ。
もう梅雨も空けて夏に入りかけた夜。すこし蒸す感じもあったが今だけは肌寒い。
「私がお姉ちゃんだったらどうする?」
ふざけてるフリをするアカリを無視していると。顔を膨らませてブランコを漕ぎ出した。ブランコのギコギコした音は花火のそれと同じ感じを漂わせ今なら聞こえないのではと。
「元気だった?姉ちゃん」
ギコギコ音は静かに早くなっていき消えた。
「って言うかな。」
こんなんじゃ誤魔化しきれてない。向こうもそうおもったんだろう。
彼女はブランコを降りた。
「喉乾いちゃうかな。」
そういうと自販機へと足を運んだ。
未来形か。
「さてどこから話そうか。」
2人はベンチに座った。
「私は未来人です。」
知ってた。佐藤の仮定どうりだ。
「あれ?驚かないの?面白くないな
じゃあなぜ私がこの時代に来ようと思ったのか話すね」
夜は長い。月が現れてから消えるまでだ。
父はお星様になった。母にそう言われて育てられた。だから姓が母の旧姓に変わらないのも特に気にせず生きてきた。母は口を開けば父を褒めるばかり、たまには私も褒めてよと何度思ったか。割と大人しい方だがそれなりに友達もいてすくすくと育ち大学を出ると就職を始めた。1年目は研修ばかりで大学みたいだったが、2年目から仕事というものを思い知らされる。仕事が楽しくないわけじゃないけど、とにかく忙しい。誰かと話したい。同期の中で仕事ができる方だ。だから不満はみんなを侮辱してると取られる。自惚れだけど間違いではなかった。そろそろ就職試験の時期か。就活生だろう、ぴちっとしたスーツの子がチラホラ。フレッシュそのものだった。その日も少し残業をして帰ろうと思った日。君に会った。
会社の前まで走ってくるその子は汗だくで、就活生が忘れものかと尋ねた。
「御百度参りです。」
え?それって神社じゃないの?ってかスーツで?そう思ったら素になっていた。
「バカだ」そう言って大声で笑ってしまった。
男の子はキョトンとしている。
そのまま飲みに行き、楽しみにしていた話しながら飲むを体験した。
「こんな先輩引いた?」
「いやこんな先輩がいるなら楽しみです。」
「君は今の言葉を将来後悔する。」
「え?」
「君を来年私の直属の部下に任命する。そしてこの愚痴会の初期メンバーとして歓迎します」
3年目には雇用への口出しは出来ないが会議で教育係となる部下を選べる。
「はい!是非お願いします。」
ほんとバカだ。
この永瀬タクミという男は。
でも仕事はできた。私はすぐに永瀬くんの教育係を外れ2人は上のチームへと合流することになった。飲み会も1次会はチームでの飲み。そして2次会はもちろん愚痴会。2人きりで場を離れるため付き合ってるなんて噂も出だした。まんざらでもなかった。でも永瀬くんが断りだしたら辞めよう。後輩だから断わりづらいのも知りながら、そんなずるいことを考えていた。
11月。永瀬くんの入社から半年を過ぎた。
今日はチームでの飲み会はない。
「今日ものみ付き合ってくれない?」
「きょうはちょっとすみません。」
その時が来たのか、でもなんかまだ言いたそうだ。
「俺土曜日誕生日で」
「そっか。誕生日前まで愚痴なんて嫌だよね。でも誕生日ならプレゼントあげなきゃね。」
「先輩としては、いりません。」
先輩としては?今がわからず頭の中をループした。
「プレゼントとしてデートしてください。」
「いいよ」
即答。自分でもびっくりしたが、頭より先に口が出ていた。でも間違ってもなかった。
2人で映画を見て、買い物をして。
帰り道。私の家の前で普通に話して、またねのタイミングも掴めなかった。
「す、つ、つ、す、付き合いませんか?」
すの方が良かったなーなんて。どちらでも返事は変わらなかった。
「付き合いたい。」
クリスマスはチキンを食べて。
春は花見に行って。
夏は海に行って。
秋は紅葉を眺める。
四季は移りゆくけども。私の心は常に春だ。
常に満開の桜が咲き誇っていた。
「同じ苗字になろうぜってプロポーズしたかったな」
「同じ苗字だもんね」
28歳の春。付き合って三年目。
桜の下であなたは言った。
家族になろう。
常に満開の心は次はなんと表したらいいのか。
はい。
桜は散る。
お母さんに結婚の挨拶に行った時、お母さんは驚いていた。彼氏のことはタクミくんと伝えていたから上の名前は初めて知ったんだって。
何故か向こうのお父さんの名前を聞き出した時は不思議だった。名前を聞いたお母さんは不安と喜びが混じっていた。微笑みながら「よかった」と一言。
それからお互いの両親同士で話したらしい。
両親どうしまたは元夫婦同士。
結婚の前にお互いにお互いの正体と経緯を話し合うべきだとなった。タクミは聞いてたみたいだけど、私はその時初めて聞かされた。
タクミのお父さんは私のお父さんでもある。
つまりタクミと私は姉弟だ。
タクミも姉弟だということはその時知ったみたい。そしてお母さんはまた私がお父さんの娘になれると喜んだらしい。
法律的には同父異母兄弟は結婚出来ないそうだ。表的にはダメだが戸籍等を変えたりすると結婚は出来なくはないそう。ただ、遺伝子が少なからず同じ分、子供になんらかの影響があるかもしれない。
5回ほど桜が咲いた。とても綺麗だ
散った桜を拾い集めて胸に押し当てた。
何度も何度も押し当てた。
それでも心の桜は散ったままだった。
彼との別れを決め、2年後。婚活で知り合った方とお付き合いし3年。いまは婚約をしている。
五十嵐 聡さん。とても堅実で真面目で優しい方。タクミのことも話して理解してくれた。
一度気持ちを確かめてごらん。それでも僕といたいと思ってくれたなら結婚しよう。
こんなに優しい人、この先どこを探してもいないだろう。この人と結婚するべきだ。でも、だからこそ、この人には嘘をつきたくない。自分の気持ちにケリをつけよう。
3年前くらい前か。テレビで話題になった。
タイムマシンの完成。正確には過去に行くのではなく、過去を見る。過去を疑似体験できる。パラレルワールドの中の1つに送ることで。
3年前は機械に入っている時間分だけ過去にいけるとされていたが。今では1日で1年行けるそうだ。
過去に来て状況を整理するため1週間くらい普通に働いた。普通にお腹はすくし、眠いし、筋肉痛もある。戻ってきたのは10年前働いて一年目。タクミと出会うのは1年後。なんてことも忘れて普通に働いた。講義ばかりで勉強も必要。一年目ってこんな辛かったんだ。休みの日に買い物に出ると女の子が泣いていた。10年前なら見逃したかもしれない。でもその時その子が自分に見えた。だからかな話しかけに行った。同じタイミングで話しかけた人。タクミだった。もしかしたら10年前もこれが初対面だった?いや10年前なら話しかけてない。運命にしか感じなかった。私にはこの人しか居ないんだと。暫くはとても楽しかった。戻ってもこの人と。でも。なんて考えている時に聡さんを見つけた。今考えたら逆ナンだな。食事だけの予定だったがこの人といると罪悪感が消えていく。むしろこの世界では浮気のはずなのに。でも付き合ってはいない。特に向こうは普通に食事してるつもりだろう。そのあとタクミとデートをする。もう分からなくなって、1回決心した。タクミのことは諦めよう。その為に聡さんの弟さんにこのことを打ち明けた。案の定ポカンとしていた。今にして思えば本人じゃない時点で、決心とやらはそんなに固くはなかったのだろう。ただこの世界のことがわかる人間ならと思ったのも弟さんを選んだ理由の1つだった。
佐藤教授。この人にタイムマシンのことが伝われば、話を聞いてくれるはず。間違いない作った張本人なのだから。この時代では出来上がってるの?研究段階?それでもなにか聞きたさによってくるはず。でも教授からのコネクトどころか、弟さんからも連絡はなかった。
そして今に至る。
真実を知ってもなお、タクミは強い顔だった。
あと1週間。
選ばなければいけない。進む道を。
見極めなければいけない。最善の未来を。
to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます