脱獄を企てる囚人と刑事の物語 ~第三話~
第三話
霧島は、事件の目撃者が住んでいるグリーンハイツ602号室の前まで来ていた。
インターホンを鳴らす。
ピンポーン……
「はい、少々お待ちください」
中から30代半ばぐらいの、主婦らしき女性が出てきた。
「どちら様でしょうか?」
こちらの素性が分からないのか、戸惑ったような声で尋ねてきた。
「私は、葛西北署の霧島といいます。2年前の高齢女性宅の強盗殺人事件について
お話を伺いたいのですが?」
「ああ……刑事さんでしたか。どうぞお入りください」
女性に促され、居間に通される。
住まいは2LDKで、部屋は整理整頓され落ち着いた印象だ。
ソファーに腰を下ろすやいなや、藤島は要件を切り出す。
「早速で申し訳ないですが、事件の話をお聞かせください。
息子さんは……?」
「ああ、大輝ですか。しばらくしたら帰って来ると思います」
「そうですか。それでは、このまま待たせていただきます。
確か、2カ月前に、アメリカから日本へ帰って来られたんでしたよね?」
「はい。主人の仕事の関係で二年ほど……あの……
大輝の証言はどれくらい重要なのですか?」
母親は、こちらを見ながら心配そうに尋ねてくる。
「詳細はお話し出来かねますが、
内容によっては事件を大きく左右することになるかと」
「そうなんですか……あの子、急にテレビで事件から2年が経過したというニュースが流れているのを見て、「僕、あの人にあった事がある」なんて言い出したんです」
「よく、2年も経った事件について警察に連絡されましたね」
「いや、息子があまりに詳細にその時のことを話すもんですから。
その日は、帰った時に膝を擦りむいていて、ハンカチが巻いてあったんです。
その怪我、どうしたの?って尋ねると、転んで、通りかかった若いお兄さんに手当てしてもらったと話していたのを私もうっすら覚えていたものでして。
それで……」
「そうでしたか。その時のハンカチは……」
「それが……あれから探したんですが、どこにも見当たらなくて……」
「そうですか」
それが見つかっていれば、死亡推定時刻に平沢が桜町にいたことの証明になったかもしれない。無論、それは警察が誤った犯人を逮捕したことの証明にもなるが……
霧島は、ほっとしたような、がっかりしたような複雑な気持ちだった。
ちょうど、その時……
ガチャ……
ドアが開き、母親が玄関に向かう。
霧島もそちらへ向かうと、小さな男の子が
きょとんとした顔でこちらを見つめていた。
<次回へ続く>
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