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 結果的に公都を堪能したのは一日だけだった。

 何故、たった一日だけなのかと言うと、深くもない理由がある。


 城壁が城の内外を隔てるだけの役目しかないとフィナレア公国の兵士に聞いた。

 城内にはいってみれば、なるほどその通りだ、との感想が出てきた。

 が、それだけなのだ。

 確かに、戦火に巻き込まれていない街は古くからの街並みで歴史を感じられる。

 他民族の影響が無く、画一的な街並みであるので見どころはあった。

 が、それだけなのだ。


 簡単に言うと、僕たちには退屈な街並みであったというしかない。

 流行り物も港街モガンディッシュで見たものとほとんど変わりが無く、後回しでも良いと思ったほどだ。


 そんな理由もあり、公都を直ぐに出立して北にある鉱山都市ベローガモを目指すのであった。


「で、こいつは何なのだ?」

「野生の魔猪でしょ?」


 僕とフラウはベローガモへ向かっていた。

 鉱山都市と言うだけあり、標高は大分高い場所にある。

 当然、続く道も深い森を切り開くようにして作られている。

 そんなところを歩いて向かうのだから魔物の一匹や二匹、現れるのは当然だろう。

 だが……。


「いや、野生の・・・って表現は良いのか判断に苦しむが、魔物ってのはわかる。だが、この大きさの魔猪は何なのだ?」


 僕が鑑定して見ても魔猪だってのはわかる。

 問題は大きさだ。

 通常の五割増しと思えるほどの大きさだ。

 コレ、食べるとなれば何人前なのだろうか?

 想像もつかない。


「まぁいいじゃない。どうせ少し行ったら宿場街でしょうし」


 久しぶりの大物魔猪にご満悦のフラウ。

 隙を見つけて一刀の下に首を落としたから血抜きはばっちり。血生臭生臭もないだろう。

 それがその笑みの元か?


「わからないでもないが……」


 フラウの気持ちもわからないでもない。

 確かに魔猪は旨いからね。

 僕も食べるのが楽しみだが……。


「でも、これどうやって持っていく?」

「あっ!」


 そう。

 僕が心配するのは、巨大だって事だ。

 通常サイズであれば棒に縛り付けて二人でえっちらおっちらと担いで移動することは問題ない。

 だけど、こいつは二人では厳しいだろう。

 運よく誰か通りかかってくれないかと思うのだが……。


「今日は誰も通りそうもないから持っていける分だけにするぞ」

「う~~。仕方ないわね……」


 フラウは渋々とショベルを持ち、近くに空き地に穴を掘り始めた。

 僕は手伝う前にこの魔猪を解体しておかないといけない。

 血の匂いに惹かれて、別の魔物が現れる可能性が高いからね。


 そんな感じで二人で手分けをして作業を行い小一時間経った頃、ようやく全ての作業を終える事ができ、再びベローガモを目指すのであった。


 宿場町へは日が沈む少し前に到着することができた。ぎりぎりだったけどね。

 泊まった宿では持ち帰ってきた魔猪を提供した事が幸いし、料金の値引きを受ける事が出来た。値引きって……。

 半分位とはいえ、魔猪を提供したのだからただにしてくれてもと思ったのは内緒だ。


 魔猪って結構高値で取引をされるから宿泊料金と相殺されても可笑しくないんだよね。

 でも、店主曰く……。


”一頭丸ごとじゃないとダメだよ。まぁ、これだけの量だから値引きはしておく”


 との事だった。

 ま、値引きされただけでも良しとする事にしよう。


 夕食に出てきた魔猪は非常においしく、他の宿泊客からはお礼の言葉を頂いたのだが、何となく納得いかないのは僕の心が狭いのだろうか?

 そんな事を思いつつ食事を済ませると、そそくさと部屋へと戻り夢の中へと落ちて行くのであった。

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