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僕たちはハンネマンさんに別れを告げて港街モガンディッシから一路、公都カンツァーロへと向かう。
フィナレア公国はそこまで広い訳ではないので、大きな街と街の間はわずかに三日しかない。しかも歩いての距離だ。当然、小さな国なので人口も少ない。
とは言っても国としての体裁を整えるという意味もあるので、そこそこの人口は抱えている事になる。公国、全人口は二十万人ほどだろうか?もうちょっといる?
そんな狭い国土なだけあって、移動は専ら徒歩である。
乗合馬車もある事はあるが、三日の距離を乗ろうとする人はいない。
よほど急いでいるか、怪我をしているか、もしくは、相当な上流階級であるか……だと聞く。だから、乗合馬車の運賃は周辺国に対しても割高なのだそうだ。
それもあるのか、宿場町と言うのが周辺国に比べて発達している。
発達と言っても、宿がしのぎを削って宿泊客を奪い合っている、と言うのが実状だ。
料金よりもサービスに重きを置いているのがその最たるものだろう。
ま、泊まる僕たちにとってはとても好ましいのであるが。
そんなこんなで宿場町を二つほど経由して三日目。
僕たちの目の前にはででんと公都カンツァーロの城壁が見えているのであるが……。
「……結構小さいな」
人口が少ないとは言え、周辺国家化から独立を勝ち取ってきた国の公都だ。さぞ立派な城壁を持っているだろうと思っていたんだけど……。
「小さいというよりも低い?」
そう。
フラウが漏らした感想の通り、城壁が低いのだ。
僕たちの出身国の王都や辺境伯領はこの倍くらいの高さがある。もし、威圧感の無い低い城壁だったら、攻める好機とばかりに兵士に群がられえて、あっという間に乗り越えられてしまうに相違ないだろう。
「ここはこれでいいんだよ。ここは他国に攻め入られたことがない土地だからな」
僕たちの感想を聞いていたのか、ふらりと兵士が寄ってきて話を聞かせてくれた。
兵士の言う通り、公都カンツァーロは歴史的に見ても攻められたことがない。
狭い国土であっても、南は強力な軍艦を有する港街モガンディッシュがあり、北は鉱山都市のベローガモとその先に天然の要害たる切り立った山脈とそこに作られた砦が南北からの脅威をがっちりと守ってくれている。
だから、この公都カンツァーロの城壁は領内と領外を隔てるだけの役目でしかない。
らしい。
「もし立派な城壁を見たいんだったら、鉱山都市のベローガモからさらに北にあるシーケント要害に行ってみるといい。戦争のない今の世の中、観光ツアーもされているからな」
なんと、要害を見学できる観光ツアーがあるらしい。
都市の基部に入るなんて兵士にでもならない限りきわめて難しいからね。
とは言っても、秘密にしておきたい場所は省かれているだろうけど。
それでも見学となれば城壁に乗ることもできるだろう。
うん、是非見てみたいものだ。
「どうもありがとうございます」
「なに、我が国にお金を落としてくれる観光客は歓迎だ。当然のことをしたまでだ」
やけに観光に詳しい兵士にお礼を告げて、公都へと足を向ける。
その足取りはいつも以上に軽やかだったのは言うまでもないだろう。
兵士の恰好をした観光案内人ってと頃だろうか、彼は。
「シーケント要害かぁ……。どうする行ってみるか?」
僕は観光案内人を兼任している兵士からの情報を元に、フラウに尋ねてみた。
フラウが行かなくても僕一人でも行ってみたいと思うけど……。
「ねぇ、コーネリアス。ワタシが行かないって言っても一人で行くつもりでしょ?」
「って、バレてる!」
「そりゃ、何年一緒にいると思ってるの?その嬉しそうな顔を見ればバレバレよ」
フラウには僕の魂胆がわかっていたらしい。
こりゃ、フラウには頭が上がらないな、きっと。
「これは手厳しいな」
「仕方ないわ。付き合ってあげるわ。まぁ、ワタシも興味が無い訳じゃないから」
と言う事で、公都を少しばかり見て回った後は北にあるシーケント要害に向かう事となった。
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