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クリスたちに案内されたのは彼らが泊まる部屋。
宿の最上階にある部屋を借り切っているみたいだ。
とは言っても最上階は一組しか泊まることは出来ない。
スイートルームって呼ばれる部屋だ。
どんだけお坊ちゃんなんだ?
「おじーちゃーん、連れて来たよー」
「おぉ、連れて来たか~!」
「おじいちゃん?」
その部屋に入ると同時にクリスは何処かに向かって声を上げた。
まぁ、入った部屋はウェルカムブースを兼ねているようで応接セットが置いてあるだけの部屋。そこに数枚のドアで仕切られていて、その先に目的の部屋があるのだろう。
そして、その一つのドアから何となく聞き覚えのある声と同時に初老の老人が姿を現した。しかも、二人の供を伴って……だ。
耳に入って来た声もそうだが、しっかりとした足取りを持つこの老人、何となく見覚えに聞き覚えもある。
そんな事を思っていると、老人が話を始めた。
「お初にお目にかかる、ワシはハンネマンと申す。こやつから聞いております。助けていただいたとか?孫娘に変わってお礼を申し上げる」
老人は軽く会釈をしながら自ら名乗り、そして、クリスから美化された(であろう)土産話を聞いてお礼を口にした。
お礼は宿の手配をしてもらった僕たちもからも言いたかった。
だけど、それよりも気になることが出来てしまった。
「ハンネマン?あぁ、思い出しました。確か一年と少し前に旅程でお会いしましたね。お一人の時に。そして、え、孫娘?」
ハンネマンと名乗った老人。
それは一年と少し前、カークランド王国への依頼中に乗合馬車で一緒になったのを思い出した。あの時に薦められた”ご隠居モーゼスの諸国漫遊”シリーズが今では読むのを楽しみにしている。現に先程の本屋でもシリーズの続きを購入した位だ。
そして一番気になったのは他でもない、孫娘と言うハンネマンからの言葉だ。
瞳をゆっくりを横に動かし、孫娘と呼ばれたクリスへと視線を移す。
僕はクリスが線の細い男としか見えないんだけど、本当は女だったなんてちょっと信じ難い。少し刈りあがった頭髪に”ボク”と自らを呼んでいるんだ。女とは見えないんだよ。
「おっと、初対面ではなかったか。それは失礼した。お前さんたちの話は孫娘から聞いておる。一応助けてくれたとは聞いているが……。何か違ったか?」
「助けた……ってのは、多少誇張はあるかもしれませんが間違いではないです。それより、クリスは女なのですか?てっきり男と思ってました」
助けたってのは語弊があるな。仲間になってたあの二人の自業自得だったからね。
まぁ知能が高い魔物、
それよりもクリスだ。
僕はてっきり男だとばかりに思ってた。
ちょっと華奢で頼りなくて大丈夫か?と感じたんだけど、まぁ、その直感はってたって事か?
僕がそれに驚いているんだけど、フラウはニヤニヤと何とも言えない笑みを浮かべてる。
……。
あ!フラウの奴、クリスが女だって初めから気付いてたな。
気付いてない僕がおかしい?
「誇張があるかはこの際良い。結果的に助けてくれたのだろうからな。孫娘のクリスティーナは誰に似たのか、冒険者になるんだって聞かなくてな。性格的にはすこ~~しばかり男勝りでこの通りだ。嫁の貰い手が無くなるんじゃないかって、ワシは心配しておる」
この爺さん、もとい、老人もクリスの事を気に掛けているんだな。
で、将来の事も心配していると。
こんな所に泊まれるくらいの家系なんだから冒険者にならなくても良いとは思うけど?
死ぬ思いをしたから冒険者は辞めるんじゃないかなぁ。
僕はそう思う事にした。
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