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 結論から言うと、目的の”ご隠居モーゼスの諸国漫遊”シリーズの続きはあっさりと見つかった。

 しかも、今までに買った大きく分厚い本に代わり、持ち運びに便利な小型版が出ていたのでそちらを購入した。書庫に並べると歪だけど、持ち運びに便利であるとの理由の他に値段が安くなっていた……との理由もある。大きさを揃える、そんなこだわりが無い僕は当然、その安くなって持ち運びに便利な方を買うのだった。


 あっさりと目的を達成した僕たちは暫く本屋で時間を潰してから、指定された目的地へと向かう。

 まぁ、目的地って言っても、クリスたちに紹介してもらう宿の目の前なんだけどね。

 指定された目的地って言い方がちょっと可笑しいか。指定された場所でいいよね。

 まぁ、いいか。


「あ!やっと来た!待ってたよ」


 僕たちが指定場所に到着すると、冒険者姿からラフな格好になったクリスとドミニクが待ちぼうけを食らった様な表情をして待っていた。予定時間からあまり遅れていなかった筈なのに、可笑しいなぁ……。

 それにしても、僕にはクリスの仕草が女の子の様に見えるんだけど……。

 目が可笑しくなったのかなぁ~?


「そんなに待った?予定通りの筈だけど……」

「早く出てきて待ってたのはこっちなので気にしないでください」


 僕が言い訳じみた言葉を口にすると、ドミニクが僕の言葉を遮ってクリスを若干否定するように謝ってきた。

 話が分かる男、ドミニク。って所だろうか?

 それを見ているクリスは少し不満気だけど。


「まぁいいや。確かにボクたちが早く来過ぎちゃったのもあるからね。それじゃ、早速案内するよ」


 少しだけ気分を戻したクリスがくるりと身を反転させると宿の中へと向かう。僕たちは彼の後をたどるようにそれに付いて行く。

 クリスの話では宿のグレードは中間から少し落ちたくらい。旅人が長期滞在するには持ってこいだという。

 ただ、お金のない冒険者だと泊まるのは少し躊躇するのだとか。


 ……。


 あれ?

 クリスたちってまだ駆け出しの冒険者だよな。

 もしかして、彼らって良い所のおぼっちゃんなのか?


 そんな疑問を思い浮かべながら宿に入ってみると、なるほど。クリスが説明した通りのグレードだ。内装が華美過ぎず、僕には好感を感じるね。フラウに視線を向けてみればやはり彼女も同じ印象のようだ。ニコニコとしてうんうんと頷いているのがその証拠だ。


「それじゃ、手続きをしてくれるかな?一応、話はしてあるから」

「わかった」


 クリスに促されるようにフロントへと向かい宿泊の手続きをする。ニコニコと笑みを浮かべているマスターらしき初老の男が対応してくれる。顔に浮かんだしわを見ていると、なんか安心する。

 マスターからは名前と何泊するか、それと朝食はどうするか位しか聞かれなかった。恐らくだけど、これがクリスが事前に話を通してくれた為だろう。


「何泊するか未定なんだけど……。前金だよね?」

「お代はお帰りの時で構いません」


 カウンター越しのマスターからはそんな言葉を返された。

 えっと、殆どの宿で前金が一般的なんだけどいいの?

 だって、どこの馬の骨かわからないんだよ。

 冒険者ギルドが発行しているカードを提示したとは言え。


「……クリスさまからのお願いですから」


 僕が疑問に思っている事を見透かしたようにマスターはぼそりと耳打ちするように告げてきた。

 あ、これ確定だ。

 クリスって良い所のおぼっちゃんで決定。


 もし、僕たちが料金を払わずに逃げてしまったらクリスたちが代わりに弁償するって事だ。そうじゃなかったら、あっさりと後払いにしないからね。


 手続きも終わり部屋の鍵を受け取る。

 そして……。


「部屋にはボクが案内するよ。と、その前に紹介したい人がいるんだ」


 思いもよらぬ言葉に僕は戦慄を覚える。

 このパターン、何か良からぬことが起こる前触れじゃないかって。

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