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「さて、何処に行こうか?」

「それ、ワタシに聞く?行くところは決まってるんでしょ」


 フィナレア公国への定期船から降り、桟橋を渡って動かぬ大地へとたどり着いた。まだ日は高く宿へ向かうにはまだ早い時間なので何処かへ向かおうかとフラウに問い掛けた。だけど、彼女は僕の内心を見透かしたように、溜息交じりで答えを口にした。


「バレたか!」

「”バレたか!”じゃないわよ。船に乗ってる時から言ってたじゃない、本を売ってるところに向かうって」

「まぁ、そうなんだけど……」


 確かに、船を降りたらどうしたいかとフラウにくどい位に話をしていた。だから内心を見透かしたようにってのは正確じゃないね。当然の様に出て来た質問に正答表を見ながら答えている様なものだな。


「不貞腐れないの。クリスたちと合流する前に行くわよ」

「仕方ないか……」


 僕は当り前の様に答えて来たフラウにちょっとだけ不満を表情に現した。

 だからと言ってフラウが嫌いになったとかないからね。

 彼女もそれがわかっているから、そんな対応をしたのだ。


 宿の事はクリスたちに相談していた。見ず知らずの土地でやみくもに探すよりも知っている人に訪ねるのが一番だからね。

 その結果、宿を紹介してくれることになった。彼らのおススメでのリーズナブルな宿を。

 だから今、彼らは宿の確保に向かったのだ。


 そして僕たちはクリスたちが宿を確保するまでの時間、好きな所を見て回ると良いとの言葉に甘えて港町を観光することにした。一緒に行こう、と言ったんだけど彼がそれを嫌がったからね。何らからの理由があったんだろうね。


 で、観光の目的が本屋ってのは大きな声で言えないのは、ちょっとだけ申し訳なく思う。


 申し訳なく思うが時間は待ってくれない。

 早速僕はフラウと共に港を離れて街へと向かうことにした。

 当然、クリスたちとの合流地点をチェックするのを忘れない。


 てくてくと街を練り歩く。

 フラウはウィンドウショッピングをしたいみたいだが、今は時間が限られているので諦めて貰って本屋を探す。後で埋め合わせはするからね。

 フィナレア公国の海の玄関口だけあって街はかなり広い。人口も公都に迫る勢いで存在するので当然と言えば当然だ。砂漠に落ちたビー玉を探す様な気持ちで街を練り歩くのだが……。


「こんなにあっさりと見つかっていいのかね?」

「いいんじゃない。時間が無駄にならなくてよかったわね」


 街をほんの少し歩いただけであっさりと目的の建物が見つかった。

 昔に会ったご隠居が説明してくれた通り、フィナレア公国は娯楽を庶民が楽しんでいる証拠と言えるかもしれない。

 逆に言うとこれだけ娯楽が広まっているという事は目的の本が手に入りやすいと言う事だ。


「時間もないからさっさと入るとするか」

「はいは~い」


 間の抜けた締まらぬフラウの返事を耳にしながら僕たちは本屋へと入っていく。

 興味が薄いと返事もいい加減だよなぁ……、フラウって。

 まぁ、いいか。


 目的の本は”ご隠居モーゼスの諸国漫遊”シリーズ。

 一年ほど前にカークランド王国へ遠征した時に買ったシリーズの続きが読みたいのだ。


 実はあの後、シリーズの第二章と第三章を購入していたのだ。

 エンフィールド王国の各地へ依頼で行く事が多く、その度に本屋を捜し歩いていたからね。

 でも、本屋は少なく、更に高価だったので手にいれたのは第二、第三章のみだった。

 僕の国では本を読むって習慣はまだまだ市民権を得ていないのかもしれない。


 だから、この旅程でシリーズの続きを安く見つける事は使命とも言えるのかもしれない。


 ……。


 って、ちょっと大袈裟か?

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