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船は桟橋を離れ港から沖合に出ると帆をいっぱいに張った。帆が風を受け白い波を掻き分け船は加速して行く。
輝く太陽が波に反射してキラキラと輝いている。そして、その波間から飛び出してきた青い魚が何とも言えぬ幻想的な風景を見せてくれる。
僕とフラウは初めて乗った海に浮かぶ船から目を輝かせて風景を楽しむ。これがいつまでも続けば良いのにと思いながら。
行く先を見ていた僕たちだけど、気になって振り返ってみればついさっきまで足を乗せていたエンフィールド王国の大地ははるか遠くに消え去っていた。海に飛び込んで泳いで帰るには無理がある距離だ、すでに。
とは言うが、そんな事をする人はいないだろうけど。
海に落ちたら巨大な魚の餌になってしまいそうで怖いけどね……。
って、そんな危険は無いよね?
無いと言ってよ。
「ボクたちの故郷、フィナレア公国について説明するね」
僕たちに話しかけてきたのはフィナレア公国までの旅程の案内をかって出てきたクリス。
初めての海に大きな船、興奮冷めやらぬ僕たちの事などこれっぽっちもわかっていないようなタイミングで話しかけられたのはちょっと幻滅だ。もう少し感動に浸っている時間を下さい。
「フィナレア公国は三つの大きな都市とその周りにある衛星都市……と言うには大げさかな?衛星街で構成されている小さな国です。人口も二十万人程度と、周辺の国家に比べて半分以下の人口です。まぁ、国土もそれほど大きくないので相応って感じでしょうかね?」
僕の事なんか知ったこっちゃないとクリスは話し始めた。
彼が説明した通り、フィナレア公国はそれほど大きな国じゃない。
だけど、二十万人も住んでいるんだから、大したもんだと思うよ。
「都市は南北に一直線に並んでいて、北からベローガモ、カンツァーロ、モガンディッシュと並んでる。それぞれ徒歩で三日から四日の距離だよ」
大きくない国土。移動もそれ程苦労はしない。
特に徒歩で三日程の距離となれば、僕の出身であるエンフィールド王国では辺境地域の都市間位しかない。だから都市間の連携も良く取れているのだとか。
「ベローガモは高地にあって周辺から鉱物資源が取れるから工業都市として発達してる。カンツァーロは公都、周辺は穀倉地帯だよ。一番南、この船が到着するフィナレア公国の海の玄関口になっているモガンディッシュ。軍港があるから軍船が沢山みられるよ」
と、まくしたてるように説明を続けた。
何となくだけど、クリスの顔がにやけている。そんなに出身国の紹介が嬉しいのかねぇ……。って僕も自分の国の良い所を一杯紹介するときは嬉しかったなぁ、うん。その時はたぶんだけど、今のクリスとおんなじ顔をしてるんじゃないかな。
そう思うとクリスに何にも言えないや。
「モガンディッシュでは入国審査があるからそれだけは覚悟しておいてね」
「と言う事はクリスも?」
「ん~と、ボクとドミニクはフィナレア公国出身のこのカードを持っているから、本人って事がわかれば審査は無いよ」
「わかった。覚悟しておくよ」
と、僕は答えたけど、入国審査と言っても簡単な質問をして来るだけだろう。
各国で指名手配されている危険人物じゃなければ問題なく入れるはず。
家を追い出された僕だけど、問題ないだろう。家督を継げられないから出奔したってよく聞くからね。それらの人がフィナレア公国に旅行に向かったって不思議じゃないからね。
僕だけじゃなく、フラウも問題ないだろう。
彼女は出奔とかじゃないしね。
問題があるとすれば……。
「幾つか心配はあるけど、大丈夫だろう……」
僕はそう呟くことしかできなかった。
何を悩んでいても、なるようにしかならないだろうし。
フィナレア公国がまともな国である事を祈っているよ。
クリスとドミニクを見ていると、まともだとは思うけど……。
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