-14-
エンフィールド王国を出発して九日。
僕たちを乗せた船は予定より一日早くフィナレア公国の玄関口、モガンディッシュの港へと入った。
時刻は丁度お昼頃。真上で日がサンサンと照らている事でもわかるだろう。
とは言うが、下船するには暫く掛かるだろう。準備が出来るまで乗客は食堂に押し込められて最後の昼食を取るのであるから。
この昼食も運賃に含まれているのでお財布を出さなくて良いのは有難い。
そして、昼食を食べ終え暫くまったりとした時間を過ごしていると鐘が鳴り響いた。
クリスを見やればそわそわとし始めたから、予想通り下船の準備が整ったのだろう。
「フィナレア公国への定期船をご利用ありがとうございます。下船の準備が整いましたので降り口まで順序良くお願いします」
鐘が鳴り終わると同時に食堂にそんな声が響いた。
あの折り目の付いた豪華な服装をしているのを見れば、船の責任者だと見て取れる。
最後だから船長が挨拶にでも来たのかもしれない……。
いや、定期船なんだから船長がこんな所に出てくるはずはないな。
「まぁ、そんな事はどうでもいいがな」
「??」
最後の感想を漏らした所、フラウの耳に入ったらしい。ぼそりと呟いただけだったのだけど。首を傾げて不思議そうな顔をしていたから何のことと思ったのかもしれないけど。僕も意味ありげな言葉を吐いてしまったのはちょっと反省かな。
「何でも無いよ。僕たちも降りるとしよう」
「何でも無いのならいいんだけど……。それよりも楽しみね、フィナレア公国!」
数日間、穏やかだったとはいえ船の中に押し込まれていたのだ。
満足に体を動かせず暇を持て余していた。だから、揺れない地面に降りる……というか、初めての土地に上陸するのはとても楽しみなのだろう。
これはフラウだけじゃなく、僕も楽しみにしている。
どんな物が待っているのか、ね。
降り口にゆっくりと進むと係員へと下船を申告する。
下船と申告しなくても良いのだけど、ちゃんと自分の意思を口にするのは大切なのだ。
「フィナレア公国へようこそ。観光ですか?」
提示した乗船券と乗船リストを照らし合わせて身元を確認している。
身元と言っても、身分証と合っているかくらいしか見て無いみたいだけど。
ちなみに、身分証は乗船時に提示しているからね。
危険人物が乗船して、他の乗客を危険にさらすのを防ぐ意味合いもあるのだとか。
で、下船時にも照らし合わせるのは乗船時と人数が合っているのか見ているみたいだ。
人知れず海に落ちてしまったとかを確認したいんじゃないかな?途中で下船したってのは無いと思うけど……。
ん?途中で下船したってなると犯罪の匂いがプンプンするな~。
人知れず移動するにはもってこいなのか?
そんな
「はい、観光が主目的です。時間があればこちらの冒険者ギルドで多少の依頼を受けてもいいかなと」
「そうですか……。はい、確認できました。良い旅をお祈りしております」
入国審査はあっさりと終わった。
剣を二振り持ち込んでいるとか、軽鎧を身に付けているとか、よくある事らしく質問は無かった。冒険者ギルドカードを提示したのが良かったのかもしれない。
クリスから入国審査があるからと脅されていたけど、何の事無い、あっさりと終わってしまって拍子抜けだ。
まぁ、それが普通なのだろうけどね。
と、僕が終わったと同じくらいの時間でフラウも入国審査をあっさりと終わらせていた。
まっとうに生きている(?)とこんなもんなんだろうな。
「さ、行こうか……」
と、フラウに声を掛けて桟橋へと向かおうとしたその時、入国審査を終えたその場所から怒声が聞こえてきた。その怒声の主はなぜ下船できないのかと係員に食ってかかっているようだ。だけど、そこで足止めを食らうと言う事は下船時までに何かの真実がわかったのだと思う。犯罪履歴があったのかはわからないけどね。
僕たちには無関係。
その怒声をBGMにして僕たちは船を降り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます