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「フィナレア公国って僕たちが行こうとしている国なんだけど……」
「えっ?そうなんですか!是非、是非、一緒に行きましょう。もしよかったらいろんな所を案内しますよ」
今までドミニクの陰に居て黙っていたクリスだったが、僕たちと目的地が同じだとわかった途端、目をキラキラさせて身を乗り出して食いついてきた。更に何を思ったのか案内まですると言い出したのには驚いた。観光の案内は必要無いんだけどね。行き当たりばったりが楽しいのだ。
ただね、クリスが近いんだよ。
男なのに線が細いクリスにちょっとドキドキしてしまう。
あれ?僕って男性趣味だったっけ?
「ちょっとクリス、近いぞ」
「あ、ドミニク、ゴメン。行き先が一緒だってわかったら親近感がわいちゃって……」
クリスはドミニクに注意されると舌をペロッと出して失敗失敗と男らしからぬ格好をして見せた。
クリスって男だよね?
目の前のクリスが女に見せるのは僕だけ?可愛らしいんだけど……。
まぁいいか。
「フラウ、どうする。行き先は一緒だから、途中まで案内してもらう?」
「そうね……」
僕の一存で決める訳には行かないからね。
フラウに意見を求める。彼女の直感を頼ってみても良いよね。
とは言っても害は無さそうだから彼の提案に乗るのも悪くないと思うぞ。
何時ものフラウは興味が無いとボーッとしているように見える。
実際、ボーッとしているんだけど。
でも、こんな時は彼女の直感は頼りになる。
どうでも良い時は当たる当たらないは半々。だけど、重要なときは十中八九当たるのだ。
たまに当たらずに酷い目に遭う事もあるけどね。
「……良いんじゃないの。向こうに付いたら別だけど、船には乗らなきゃいけないんだし……」
「確かにそうだな。じゃ、よろしく頼むよ。早速だけど、案内を頼むよ。向こうに着くまでだけど」
「わかった。そうしたら早速、船着き場に案内するよ。宿もそのあたりにたくさんあるから」
何となく、クリスたちに誘導されているんじゃないかと思わないでもない。僕らの思考を読み取っている様な?そんなこと無いよね。
まぁ、宿を探す手間を省けるから良しとしよう、そうしよう。
そんなやり取りがあったんだけど、クリスたちに騙されることなくフィナレア公国へ向かう船の乗車券と手ごろな宿へ泊まることが出来た。
ちなみにであるが、フィナレア公国へ向かう船は二日後に出発であった。
余裕があって何よりだ。
そして二日後。
青い空と穏やかな海が広がる港へ僕たちは来た。
海を見るのは実際初めてだ。
僕だけじゃなくフラウも同じようで、二人して真っ青に輝く海を見て感動していたのは言うまでもない。
言葉が出ないってのはこういう事を言うんだとしみじみと思った……。
「聞いてはいたけど、海ってこんなに広いんだね~」
「広い湖じゃないの?と思ったけど、違ったわねぇ……」
田舎から出て初めて都会を眺めた田舎者見たいで少し恥ずかしい。
後で思った事だけどね。
「あ、コーネリアスさん、フラウさん。ここにいたんですね、探しましたよ」
僕たちの後ろからクリス達が声を掛けてきた。
同じ宿に泊まっていたけど、彼らの方が先に出て待っていたらしい。
想定した頃合いになっても現れないから探していたのだという。
あれ?そんなに時間時間かかったかなぁ~?
「もう乗船出来ますよ。早く行きましょう」
「あぁ、すぐ行くよ」
クリスたちに促されて、堪能していた素晴らし景色に別れを告げ、フィナレア公国へ向かう船へと乗り込むのだった。
船は二百人ほど乗客を乗せられる。
旅程はおおよそ十日。西へ向かうのでこれだけかかるが、フィナレア公国から出発した時にはもう少し日数が短縮されるらしい。
帰りも船に乗って確かめるべきであろうか?
あてがわれた船室でゆっくりしていると出航の鐘が鳴った。
音も無くゆっくりと揺れが走り、エンフィールド王国を離れるのだった。
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