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 調査地は森に入って行って一日半。

 しかし、僅か半日もたたないうちにあの鬼人オーガーと出会ってしまったのだと言う。

 ちなみにであるが、鬼人オーガーは生態がハッキリしていないところがあり、”誰も手を出すな!”と言うのが冒険者の間では一般的だ。それは冒険者ギルドでも口を酸っぱくして……までは言われないが、注意してくれと言われるからでもある。


 生態がハッキリしない鬼人オーガーだが、知能が高くこちらから手出しをしなければ滅多に攻撃される事は無い事だけは一応わかっている。だから、出会ってしまったら無視して先へ進んでいたら、大事にならなかった可能性が高い。


 だが、彼らの実力で鬼人オーガーを討伐できる筈も無いから無暗やたらと手を出したとは考えにくい。何故だろうと思ったところ、その理由を彼らは申し訳なさそうにぼそりと語り出した。


「事の起こりは仲間の一人が鬼人オーガーの子供を見つけた所から始まります」


 森の奥深くにあると言う廃坑への道すがら、小さな泉の傍で赤黒い肌の魔物を見かけた。肌の色から鬼人オーガーであると誰もが認識した。冒険者ギルドで注意すべき魔物だと注意されるからである。

 ちなみにであるが、鬼人オーガーとトロールを比べれば危険度は月とスッポンだ、

 どちらが危険度が高いって?

 それは言わなくてもわかってるでしょ。鬼人オーガーに決まってる。


 その鬼人オーガーの子供が、一人で何かを探していた様に見えた。付近に大人の鬼人オーガーが居たのかは定かではない。だから、一人で何かを探して遊んでいる様に感じたのだと言う。

 その後、鬼人オーガーの子供は遊びに飽きたのか、周囲に生っていた木の実をもぎ取り何処かへと消えて行った。

 木の実と言っても拳大の大きさがあり、一個で腹いっぱいになると思われる程だ。


「実際、鬼人オーガーの子供を見つけてから去るまでほんのわずかの時間しか経ってません」


 子供の鬼人オーガーはその場からすぐに見えなくなった。

 そう。

 彼らが遭遇した鬼人オーガーはその子供では無かった。


「そして、鬼人オーガーの子供が去った後、仲間が成っていた木の実を採って行こうと言い出したのです。ボクたちは鬼人オーガーが手にする程気に入っている木の実を採るのは止めようと注意したのですけど……」


 結局、彼らの意見を聞く事無く、木の実を数個採って森の奥へと向かう事になった。

 ちなみに木の実を採ったのはくだんの二人。それをバックパックに収めている。


 それほど時間が掛かることなく木の実を採り終え森の奥へ進んだのだが……。


「小さな泉を過ぎ少し進んだところで異変が起りました。あんなに騒がしかった森が不気味なほどしんと静まり返ったんです」


 トロールや鬼人オーガーが森に住んでいたとしても、小動物や鳥などが忙しく行き来している。鳴き声や足音、それに草木を掻き分ける音など、様々な音で森は賑わいを見せている。

 その音が彼らの耳に届かなくなってしまったのだ。これが極々ありふれた状況だと思う筈も無いだろう。異変が起こっている、そう感じざるを得なかった。


「そして、ボクたちが周囲を警戒し始めたその時、あの鬼人オーガーが道を塞ぐように現れたのです」


 にわかに信じられない状況が発生した。あの鬼人オーガーを見ていなければ僕も彼らの言動を信じる事は出来なかっただろう。


 それからは僕たちの知る通り、鬼人オーガーに追い掛けられ森から追い出され、二人は背嚢バックパックを剥ぎ取られて散々な目にあった。


「経緯としてはこんな所になります」

「ほんと、信じられない事ばかり起ったんだな~」


 乗合馬車に揺られながら彼らの話を聞き、そんな感想を漏らすしかなかった。

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