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「乗せていただいてありがとうございます」

「なぁ~に。お金も貰って定員にも空きがあったからな。座席は外で申し訳ないけど」

「いえ、ボクたちを乗せてくれただけでもありがたいです」


 僕たちが乗る乗合馬車の後ろ、外に設置してあるベンチシートに逃げ遅れた冒険者二人がちょこんと腰を賭けて御者にお礼を言っている。鬼人オーガーも去って行ったから危険も無くなったし商売をするのは問題無いと思う。

 外のベンチシートを使っているのは、汚れているから車内は勘弁してもらったからだ。


 鬼人オーガーに襲われた二人がどうなったかだが……。


 いずこへ行ったか知らん。

 脇目も振らず、何処かへ逃げて行ったらしい。

 自分で見たわけじゃないからな。


 それにしても彼らも不憫だな。

 一緒にいた仲間に裏切られたんだから。

 どんな依頼を受けていたか知らないけど、失敗って事になるかもしれない。

 まぁ、裏切り者が出てしまったと言えば情状酌量の余地はあるだろうから大丈夫だろう。

 彼らだけの報告で心配だったら僕たちが目撃者だと言えば何とかなるかもしれないしね。

 乗合馬車を盾に使われるんだったら抵抗したけど危険が無くなった今、彼らに強力するのは吝かではない。


 ちなみに、後ろの二人は一緒に乗合馬車に乗っていたから何となく覚えている。顔を合わせただけだから名前は知らないけど。


 馬車が走り出すと彼らは安堵の言葉を掛け合っている。仲間に裏切られ鬼人オーガーに襲われそうになり生きた心地はしなかっただろうからね。

 僕も同じ状況になったら彼らと同じように安堵の言葉を掛け合うと思う。


 そんな彼らに僕は顔を窓から出して声を掛けてみる事にした。


「とんだ災難だったな」

「あ、あなたは!ボクたちの連れがご迷惑を掛けたようで……」


 うん。

 盾にしようとした馬鹿者たちはともかく、この二人は何となく行儀が良い。

 その言葉遣いだと舐められるだろうから気を付けた方がいい。とアドバイスをしたいけど、それは次の街に到着してからだね。

 日没までには到着するかな?


「畏まる必要は無いさ。同じ冒険者だからな」

「そ、そうなんですか?」

「君たちじゃなくスッとんで逃げて行ったあの二人が迷惑を掛けそうになったってだけだからな。あまり気にしない方がいいぞ……と言っても気になるのかもしれないが」

「気にしない様に努めます……」


 的確なアドバイスを……と思ったが、出来る事はこれが精いっぱい。

 あとは彼ら自身が気を強く持って再び立ち上がって貰うしかないな。


 それにしても、彼らはかなり華奢だ。

 いっちょ前の武器をぶら下げているけど、武器に振り回されていると思うくらいだ。

 腕の太さもフラウに負けているし、力仕事をしてこなかったんじゃないかと思うほどだ。もしかしたら、非力なヴィリディスよりも華奢かもしれない。


 ……。


 気にし過ぎかな?

 他人のことをとやかく思うのはやめにしておこう。


「ところで、どんな依頼を受けてたんだ?話せないのだったら話さなくても良いけど」

「やっぱり気になりますよね。話せるところだけ……」


 そう断りながら彼らはゆっくりと、そしてぼそりと話しを始めた。


 彼らの受け依頼は簡単に言うと調査依頼だった。

 ここから森の中に入り、うっそうと茂る草を描き分けて進むこと一日半。そこに打ち捨てられた廃坑があるという。

 廃坑といっても伝説の時代に掘られたというほど古いので廃坑なのかどうかも疑問だという。ただ、提示された情報によれば誰かが掘った穴がぽっかりと口を開けて待ち構えている事だけは確かだった。


 そこへ行き、生息している動物や魔物を調査してくる、というのが依頼内容である。

 廃坑へ入る指示が無い事と、思った以上の報酬が提示されていたために受けてしまったのだという。

 今の僕たちだったら、依頼内容にしては報酬が良すぎるため受けるのに躊躇するだろう。だけど、駆け出しの彼らはそれらの判断基準が甘いので、報酬の額面につられてしまったのだ。


「ですけど、そこまで行く前にあの巨人に出会ってしまった、調査場所にまでたどり着けなかったんです」


 うつむき加減で悔しそうに言葉を綴るのであった。

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