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 と、言うわけで僕とフラウはヴィリディスとクリガーマン教授にしばしの別れを告げてフィナレア公国へ向かう事になった。

 まぁ、懸念が無い、なんて事は無い。ん、なんか言葉が変か?

 研究大好きな二人が組んでしまったのだ。寝食を忘れ、更に時が過ぎるのを忘れ、トイレも風呂も何もかもすっ飛ばして研究するに違いない。だから、王立高等教育学院の事務職員に一日一回は教授の研究室に強引に踏み込んで下さいとお願いしてきた。

 毎日は難しいかもしれないから、数日に一度で良いかと返されたのはちょっと笑えたね。

 でも、僕たちが帰ってきたら二人が研究室で木乃伊ミイラになってたなんて嫌だからね。

 そうならない事を願っている。



 大丈夫だよね?


「コーネリアス。何、心配してるの?」


 エンフィールド王国からフィナレア公国へ向かうには一年前に行ったカークランド王国を経由するのが一般的だ。何せ、道をたどれば必ず到着するんだから。

 それに治安もそれほど悪くない。多少魔物が現れるだろうが、数人で徒党を組んでいれば問題無いだろうからね。


 そしてもう一つの方法。

 エンフィールド王国を南に抜けて海まで行き、そこから海路でフィナレア公国へ向かう方法だ。

 海は陸に比べて危険度が圧倒的に高い。

 高いと言っても、暴風など悪天候でなければ問題ないんだけどね。

 その他にも巨大な海洋生物に襲われる可能性もあるんだけど、沖合に出なければ大丈夫だろう。


 それらを加味して、エンフィールド王国からフィナレア公国へ向かう船便は陸地が見える場所を進んで行くのが普通だ。


 で、僕たちがフィナレア公国へ向かう船便が発着する港町へと向かう途中なのだ。

 何で向かっているって?

 当然、乗合馬車だ。

 そうじゃなきゃ、こんなに思考するなんて無理だからね。


 っと、フラウから話を振られたんだった。


「ごめんごめん。ちょっと王都に置いてきたヴィリディスとクリガーマン教授の事を考えてた」

「もう!可愛い恋人が目の前にいるのに……。同性愛に目覚めた訳じゃないわよね?」


 えっと、僕の何処をどう見れば同性愛者になるんだ?

 昔から同性には恋愛感情はないぞ?


「当然!同性愛者になんかなってないぞ」

「そう。それなら安心よ。で、何を考えてたの?」

「だから、あの二人の事だよ。旅行を終えて帰ったら木乃伊ミイラになってたら嫌だなって」


 旅を終えて王都まで帰って、クリガーマン教授の研究室を訪ねたら、二体の木乃伊が僕たちの目の前に……。笑えない冗談だ。


「うん、確かに笑えないわね。たしか、事務所の職員に頼んで来たのよね?大丈夫じゃないの?」

「そうだと良いけどね」


 安心……とは言いづらいけど、大丈夫だと思う。

 多少の不安はあるけどね。


「二人の事は忘れて、こっちはこっちで楽しみましょ」

「ま、そうするしかないだろうね」


 僕はフラウとの会話をしながら思考を過去からこれから訪れる未来へと切り替えるのだった。


 乗合馬車はゴトゴトと僕らを乗せて進む。

 車内には僕たちの他に冒険者風の男女が数人と職人(風?)が乗る。

 冒険者の会話を聞いていると何処かへ任務へ向かっているそうだ。何の任務なのかは分からないけど、意見が対立していて、とても依頼が成功するとは思えない。

 なんというか、船頭多くして船山に上る、そんな気がしないでもない。それに装備も前衛に偏ってる。遠距離攻撃が得意というのも居なさそうだし、斥候も……。

 僕たちって三人だったけどバランスは良かったんだよね。

 さて、彼らは依頼が上手く行くのかねぇ。

 まぁ、祈るしかできないか。


 職人(風?)さんは何も話さないし、馬車内ではずっと眠ったままだから何の仕事をしているか分からない。

 しいて言えば、盛り上がる筋肉と火傷の痕から鍛冶師では無いかと思うんだけど……。

 まぁ、謎としておきましょう~。

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