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 背の低い木々の間を暫く進んで件の遺跡へとたどり着いた。そろそろ野営の準備を始めねばならない時間かもしれない。西へ顔を向ければこの周辺よりも高い山々が日を遮ろうとしている。本来ならまだまだ準備には時間が早いが日が沈んでしまうのだから仕方がない。


「遺跡探索は明日からだな。まぁ、朝はいつも通りに日が昇るだろう」


 日が昇る東に顔を向ければ遠くに緑の草原や種を蒔き微かに緑になった畑が見える。遮るものが無い、--と言っても背の低い樹木は十分に生えている--、東からの日の出はいつも以上に早いかもしれないな。


 時期は立夏、標高が高く朝晩は冷えるとは言え過ごしやすくなる季節。僕たちだけじゃなく、魔物も活発に動き出すから野営は大変かもしれない。

 さて、何が出て来るかな?


「あそこに遺跡が見えるけど、今日は遺跡には入らないんだよね?」

「そうした方が良いだろうね。何処を野営地にするか……」


 周囲を見渡すと否が応でも遺跡が目に入る。

 だけど、遺跡は野営に適していない。

 地面もそうだけど、崩れているから瓦礫が多いってのもある。

 山道以上に足元が悪いから、もし、夜間戦闘になったら足元がおぼつかないと考える。だから、なだらかな場所が適しているだろう。

 僕とヴィリディスが二人して腕を組んで悩んでいると、フラウが申し訳なさそうに声を掛けて来た。


「あのさぁ……」

「ん?どした」


 僕が言葉を返した後、フラウが明後日の方角を指で差す。それに釣られて僕とヴィリディスがグリッと首をそちらへ向けると……。


「あ!」

「おぉ!!」

「何か、悩んでいたけど、あの場所が野営に丁度良いんじゃないかって……」


 フラウが指を向けた場所は崖の真下。

 そして、浅い洞穴がぽっかりと口を開けていた。

 間もなく沈む日の光で奥まで見えているんだから、浅い。洞窟と呼ぶにはちょっと浅すぎるね。

 崖下に岩が落ちていないから陰崩れの心配もなさそうだし、周囲を見渡せて丁度良い場所だ。

 だけど反対から見れば、光が遠くから見えてしまい、この場所で野営しているのがバレバレだね。


「焚火の周りに囲いを付ければ大丈夫よ。土魔法、得意でしょ?」

「まぁ、焚火の周りを囲うくらいなら」


 フラウが身振りて手振りを交えて焚火の周りを半円状に囲うようにと説明してくる。

 まぁ、それだったら最低限の光しか漏れないので見つかる確率は少なくなるだろう。

 けど……。


「あんまり焚火の材料となる木の枝が落ちてないんだよな~」


 そう、遺跡周辺に当たるパドゥムの街の東側は鍛冶仕事のために木々を伐採しすぎて禿山になってしまった。取り戻すために植林作業を続けているが、まだ資源になるまで育ち切っていない。その為、折れて地面に積もっているはずの小枝も少なく、何日も野営するには心許ない。

 獣道を進んでいる時から小枝を集めていたが、一晩過ごせるだけ集まらなかったのだから愚痴の一つも出ようと言うものだ。


「焚火は無いが、明かりは魔道具で代用できるし、寒さは毛布に包まって懐炉を使うしかないだろう。一、二日、我慢すれば調査は終わるだろうしな」


 調査する場所はだいたい聞いているし、調査内容もヴィリディス曰くそこまで時間が掛かるものではないらしい。とは言え、最低でも一日は掛かるそうだけどね。

 食料もあるし、ほんの数日我慢すれば暖かいベッドがある街へ戻れるんだから、何週間も野営しっぱなしの兵士たちの事を考えれば贅沢っていうものだ。


 と、いう訳でその洞窟……と呼ぶには語弊がある洞穴へと向かい、野営の準備を始める。

 夕食を作るには火を起こさなければならないから、集めた小枝を組んで火を付ける準備だけしておく。

 その間に、夜露を凌ぐテントを張り、料理の下準備をする。

 日が沈めば気温が下がるので早めに懐炉に魔力を通して懐へと仕舞い込んで暖を取る。

 焚火の周りに僕が土魔法で小さな土壁を作り焚火を囲う。石造りのかまどより少しばかり見た目と使い勝手のかまどって所だろうか?


「それじゃ、夕食にしようか」


 僕たちは火を起こし、下準備の終わった食材を調理し始め暖かい料理に舌鼓を打つのだった。







※立夏:二十四節気の一つ。5月上旬頃。その頃の気温と思ってください。

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