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 夕食が終わり、魔道具の照明で足元を照らしながら不寝番をしていると、案の定、臭いに引かれて魔物が現れた。

 ただ、僕たちが絶対にいる、とは確信が得られなかったようで周囲を探しながらだった。


 夕食に使った焚火を地面に掘って埋めてしまったのが良かったのかもしれない。

 それでも僕たち人間の体臭を完全に隠すまでは出来なかったみたいだ。

 嗅ぎ慣れぬ臭いが人間だと思っているのかもしれない。


「ゴブリンか……」


 天に顔を向ければ月が真上に来た時だった。

 時間的に見れば日付が変わって数時間。暫くすれば日の出になる、そんな時間。

 テントで寝入っていたヴィリディスとフラウを叩き起こし、息を殺してゴブリンに備える。


 夜目が効かないとは言え、月が放つ薄い光でゴブリンのシルエットはわかるつもりだ。基本的に、人間の十歳くらいの子供同じ背丈で夜中に松明も付けずに歩き回るのはゴブリンしかいない。

 大型の変異種は見当たらないので上位種、--魔法を使う個体--に注意すれば良いだけだろうね。


 とは言え、奴ら、細長い棒を草むらなどに突っ込んでいるから僕らの事はわかってないのかもしれない。鼻をひくひくさせて臭いを辿っているようだけど。まだ離れているから方向を変えて、こちらに来ない事を祈る。

 来なかったら来なかったで、叩き起こした二人にメタメタにされそうだからちょっと怖いけど……。


「まぁ、完全に危険が無いのなら許さんが、目の前に脅威が迫っているんだ。何も言わんよ」


 僕が考えていたことをヴィリディスが否定してきた。

 あれ?

 顔に出てた?

 暗がりでわからないと思ったんだけど。


 フラウにも視線を向けてみればうんうんと頷いている。

 やはり、二人共同じ様に、僕の考えを否定しているんだね。

 メタメタにされなくて助かるよ。


 だけど、安心は出来ない。

 ゴブリンが近づいてくる。

 数は五匹?

 棒状の武器を携えているのはシルエットでわかるから槍を持っていると考えて対処すれば良いかな?悪知恵が働くから腐った液体とかを塗りたくっているといけないから、それにも注意する必要があるな。


 ゴブリンの相手は僕とフラウだけで行う。

 ヴィリディスも参加しても良いけど、暗がりで急に火の玉が現れ、さらに爆発まで起こると余計な魔物を呼び寄せてしまうかもしれないからね。ピンチになるまでヴィリディスの魔法は封印だ。


「近づいてきたから一気に片づけてしまおう」


 僕はゆっくりと普段使いの剣を抜き放つ。

 圧倒的な切れ味を期待するのなら業物の剣を引き抜いて魔力を込めるべきだけど、そうすると暗闇にぼわっと薄く白い光が浮かぶ。それにゴブリンが一斉に襲ってきたら、いくら業物の剣を使っていたとしても無傷では済まない。

 切れ味が劣るとは言え、自らが光らない普段使いの剣を選択するのがここでは正解なんだ。


 変異種とかが出てきたら、また選択は異なるけどね。


「何かあったらオレが魔法で援護する」

「そうならないように速攻で片づける。フラウも頼むね」

「任せて!しっかりと狙えるから外さないよ」


 囁き声で答えてくれる。

 二人共頼もしい。

 後ろを気にしないで突撃できるんだから安心だ。


「じゃ、行ってくる……」


 僕は身体強化魔法を軽く掛けるとゴブリン目掛けて全速力で走った。


 ゴブリンは夜目が利く。

 それは誰もが知る事実だ。

 それ以外に鼻も利く。

 ひくひくとさせているのが証拠だ。

 ただ、耳は人間と同じくらいだ。

 遠くで聞こえる不可思議な音が届いたとしても、反応しないのだから。


 だから、僕が軽く身体強化魔法を掛けて全速力で走っても直ぐに反応せず、一拍遅れてこちらを見る事になる。


 一匹目のゴブリンは僕を見ただけで武器を構える事も出来ず、一閃した剣に首を刎ねられ絶命した。

 ゴブリンと言えども首の骨は頑丈に出来ている。だけど、人が使う剣だったら、その位ヘッチャラだ。首の骨を砕いてしまうからね。


 次のゴブリンへと向かおうとすると、フラウの援護が飛んできた。

 だけど、暗闇へ放った矢はゴブリンに命中することなく、草むらへと飛んで行った。


 ちょっと予定と違うんだけど?

 この時点で二匹を仕留めているはずだったんだけどなぁ。

 これは気を引き締めないといけないかもしれない。






※月の公転と太陽の公転の速度が違うので、月が天頂に達したとしても真反対に太陽がある訳じゃないので間違いではありません。

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