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 クリガーマン教授は暫く口を閉ざし、腕を組みながら眉間にしわを寄せ熟慮に入った。 今までの聞いた事を頭の中で整理しているのだろう。

 どんな答えを出すのかわからないけど……。

 一つだけわかるのは、僕たちと教授は一蓮托生って事だけ。


「ヴィリディス、お前の言いたいことはわかった。要するに、教会が”光属性魔法”を使える事を秘匿している、それを我々が知っているとバレれば命の保証は無いって事だな」

「そう言う事です。とは言え、オレたちもまだ断定段階なので大っぴらに口にする訳には行かないのです」

「いや、それは正しいと思うぞ」


 教授が口にした通り、教会の秘密を知っていると教会関係者にバレた場合、良くて監禁、最悪の場合は拷問の上で首を刎ねられる。僕たちはそう予想している。その予想は教授からしてみれば正しいと言う。


「教会騎士団は融通が利かなくてな。時折血の雨が降るんだよ。一年に一回の頻度でな……」


 僕たちの予想が正しいと教授が口にしたのは、過去に目撃した事例に起因する事が理由だったらしい。


 僕たちが考える教会騎士は、教会の中で何か騒ぎがあった時にそれを静めたり、警備をしていたりしている光景が思い浮かぶ。司教に狼藉を働こうとする前に力ずくでその場を制圧するなどがいい例であろう。


 だが、教授はそれよりも酷い現場を目撃したことがあると言う。


「実は口にしたら己の身に破滅が訪れるんじゃないかと思って、誰にも話してない事があるんだ」

「そんな事があったんですか」


 教会騎士があんなことをするとは思いもよらなかったと、複雑な表情を見せながらぼそりとその様子を語りだした。


「あれは……。何十年も前んことだったな……」


 それはとある夏の夜の事だった。

 教授が王立高等教育学院の研究員として働き始めて数年経った頃。

 研究がはかどらず研究室に寝泊まりするのが日常となってしまった。着替えも尽き一度着替えをなどを用意する必要がある為に自宅へ帰らざる得なくなった。

 昼間には帰る事などできず、戻るのが深夜、しかも日付をまたいで翌日になってしまった。その自宅への帰り道でふと、もよおしてきてしまったのだった。

 研究が上手く行かず、がぶがぶと水を飲んでしまった事が原因だった。


 深夜で誰の目も無い事を確認すると、教授は道を外れて路地へと入った。

 そこでなら誰の目も届かないだろうと安心して用を足し始めた。

 そして、用を足し終えた教授はふと、人の気配を感じた。

 何が起こっているのだろうと教授の好奇心がムクムクと立ち上がる。そして、好奇心の赴くまま、教授は路地の奥へと歩み始める。


 本来なら、人の出歩かぬ深夜に人の気配がすれば、危険が伴うと感じるのが殆どだろう。いくら治安が良い王都だとしても、巡回する兵士の数が極端に少なくなる深夜ではそれが顕著になる。

 それを考えれば、教授の取った行動は褒められたものでは無い。


 それでも教授は好奇心が勝り、路地を奥へ奥へと進んでいった。

 人の気配がする場所へと到着すると、路地の角からこっそりと奥を覗いて見るのだった。


「……!!」


 声を漏らしてしまうかと思ったと言う。

 思わず両手で口を塞ぎ声が漏れるのを防いだのが良かった。


 教授が声を漏らしてしまうと思ったのは当然だろう。

 深夜に惨殺死体が出来上がるのを見てしまえば……。


 うっすらと降り注ぐ月明りに照らされた衣服の艶からすれば何処かの貴族だと直ぐにわかった。その貴族が、特徴ある白亜の鎧を身に着けた騎士に囲まれ滅多切りされていた。

 何故、教会騎士そのような行為を行ったのか、理解できなかった。


 一つだけ確実なのは、この場に残っていればいずれ見つかり、惨殺死体となった貴族と同じ末路を迎える事だけ。

 そうなっては拙いと、息を殺してその場から立ち去ったのである。

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