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 クリガーマン教授の帰還が決定してから準備が整うまで約半月。

 何処のお大臣様かと思う程に時間が掛かった準備に辟易してしまった。

 身だしなみはともかく、身一つで寒い王都から過ごしやすいサラゴナへと来ているんだから直ぐに出発できるはずと、僕は不思議に思った。

 だけど、教授が用意した馬車を覗けばその疑問も納得するしかなかった。


「これ、全部必要なのですか?」

「当然!」


 量販されている幌馬車にほんの少しお金を掛けた荷馬車の荷台に、これでもかと押し込まれた資料の山が見えたのだ。いくら研究結果や成果を持ち帰るとしても、たった数か月に積み上げられた量は異常と思う程だ。御者席に二人、荷台に狭苦しく押し込まれて三人がやっと乗れるくらいしかスペースが開いてない。

 幌馬車なので天井高が取れている事が唯一の救いかもしれない。


 僕とフラウはその荷物に唖然としていた。それに対しヴィリディスは”またか”と呆れた表情を見せていた。教授やヴィリディスには当然の光景なのだろう、この荷物の山が……。


「それで、護衛は僕たちだけで良いのですか?」


 満足げに荷物を見ている教授に問い掛けた。


「王都へ向かう街道で盗賊など出ない。道も広く、草原や畑が広がっているくらいだ。護衛なんて無くても平気なんだが、学院から最低でも数人は護衛を雇う事と言われて予算も出ているから仕方なくだ」


 王都から離れた辺境は街道の整備が間に合っていない場所が多少ある。僕たちが拠点にしていたウェールや父親が仕える辺境伯領がその代名詞だ。魔物が出没するので道を整備しても直ぐに掘り起こされてしまうので道しるべとしての意味合いしか持っていない。

 田舎はそんなものと思って欲しい。


 それに対し、王都に近ければ近いほど、街道を兵士や騎士が巡回し、魔物や盗賊などが出没できる場所が無いのだそうだ。

 住む場所として王都近郊は羨ましいと思うが、その分税金が高くいらしい。冒険者ギルドからの依頼料も、取られる税金が多いらしいからどっちが良いのか悩む所だ。

 安全を優先するのか、稼ぎを重視するのか。悩ましい所である。

 僕たちにはあまり関係ない事だけどね。




 サラゴナの街を出発。

 北の門を出て一路王都を目指す。

 春を感じながらガタゴトと揺られながら馬車は進む。

 魔物の出ない馬車旅は快適その物。整えられた路面とは言え地面からの突き上げが無い訳ではない。クッションに座っているとは言え、誰の尻も痛々しくなってくる。


「まぁ、尻が四つに割れなければいいがな……」


 尻が痛くなるのは仕方がない。

 僕も慣れぬ馬車旅、人が乗ることを考慮していない馬車に揺られての馬車旅に、一日終わるころには辟易したのは内緒である。

 もしかしたら誰もが思っていることかもしれないが。


 その疲れ切った一日も終わり、夕食も食べ終え後は寝るだけとなった。

 雇った御者は早速テントに入り寝入ってしまった。

 実際、その方が都合がよかった。

 この旅路のどこかで、クリガーマン教授に僕たちが知り得ている危険を教えねばならないのだから。その機会が早速やってきたのだから逃すわけに行かない。


 寝ずの番として僕とヴィリディス、そして、フラウの三人で回すことになっているが、まだ寝るには早いと三人ともが起きている。


 依頼人の教授も長い旅路で体力を消耗しても……、と考え横になろうとしたところを僕たちは行動を制して話をすることになった。


「教授、申し訳ないが少し話しに付き合ってくれないか?」

「何だ改まって?馬車に揺られるだけだから少しは融通が利くが、長時間はダメだぞ」

「大丈夫です。そこまで時間は掛からないでしょう」

「それなら……」


 コップにお茶を入れて教授に渡すと、僕たちの話しに耳を傾けてきた。

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