第3部
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※この話から第3部です。
北からの寒々とした風がひと段落し、日の光と共に気温が上がり花咲く季節になった。木々も青々とした葉を茂らせ始め、人々の心にも柔らかな春の日差しが届きだす。
街に閉じこもっていた商人たちも街から街へと渡り歩き始め活発に活動を始める。商人たちが街を走らせる行商の馬車を横目に麦畑が色づき始め鮮やかな緑色へと変わる。
そんな季節になるまで僕たちはサラゴナの街で過ごした。
ウェールの街へ帰還したく無かったのもあるが、クリガーマン教授がこの街を離れず、そして、僕たちが知りうる教会の秘密、それと危険性を教える事が出来なかったのが理由だ。
それは僕たちの理由なんだけど、王立高等教育学院の教授である彼が王都へ帰還しなかったのは理由があった。
……ったのだが。
良いのかなぁ。そんな理由で……。
”寒い王都に帰りたくない。冬はここでバカンスじゃぁ!”
とのたまって外に出ることなく、引きこもっていたのだから……。
とてつもない理由があったと思っただろう。
それを聞いたとき、僕たちでさえ滑って転んでしまったくらいだ。
あの時は何で転んでしまったか、謎が謎を呼ぶが……。
王都が寒いってのは何となくわかる。
聞いたところによると、王都はサラゴナの街から北東に馬車で一週間ほどかかる。
しかも要害と呼ぶにふさわしい台地に建てられている。そこがまたここよりも五百メートルも高い場所なのだから寒くて当然。
サラゴナが如何に暖かいか、教授の我儘を聞けば誰もが納得すると思う。
今は魔道具の懐炉が普及しているのでそこまで過ごしにくいとは無いけど、一昔前は薪が無くなることがしばしばあり、凍死者が多数出ていたらしい。
”棺桶に片足を突っ込んでいるんだから、少しくらい楽させてもらうよ”と出来る限りの調査、研究は暖かいサラゴナで行っている。しかも、”給料を減らされてもいいのか”と告げられたらしいが、それよりも暖かい場所での研究を選んだのだから、寒いのが堪える年齢になったのだろう。
そのようにして冬を過ごしていた教授とはたまにヴィリディスが会っていたくらいで説明の機会は訪れなかった。
だが、春になった事で教授と話す事が出来る機会を得る事になった。
それはクリガーマン教授が王都に帰還しなければならない事だ。
実は今、クリガーマン教授の周りには助手の姿が無い。
教授が先に王都へと帰還させた事が理由の一つである事が上げられるが、それは理由じゃないと僕たちは思っている。
教授が雇っている助手は教会の息が掛かっているのは知っての通りだ。
冬の寒い時期は教授は何処にも出たくないと引きこもっているのは数年前から始まっていた。だから、助手が少し目を離した隙に遺跡調査に乗り出すことは無いとわかっていて、監視から外れたのだろう。そう考えたのだ。
本来なら監視は何もしていない時も行うべきであろうが、助手たちは教会から派遣された信徒であるのだから、そのあたりの知識は無い可能性も考えられるが……。まぁ、実際の所は不明だ。
監視していないのか、それとも泳がせているのかは僕たちにはわからない。
わかったところで何が出来る訳でもないし。
とにかく、王都へ帰還する時に教授に話そうと考えたのだ。
では、どうやって教授と話すのかと言えば、教授の護衛と称して王都へ向かう、これしかない。
多少依頼料は少なくなるが、ヴィリディスのお友達価格と考えれば、妥当と思うしかない。満額を出してもらえるのなら有難いが……。
えっ?トロール狩りをした時の兵士はどうしたかって?
あれは王立高等教育学院で雇った兵士であり、教授が帰還するときに使える戦力では無いので今回は使えないのだ。
尤も、契約の期間はとっくの昔に過ぎ去っているので、教授が使える戦力は一人も無いとだけ付け加えておく。
そんな訳で僕たちはクリガーマン教授を護衛しながら、一路王都を目指すことになった。
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