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 あれから十日余り。

 僕たちは遺跡を出発してサラゴナの街へ帰路に就いていた。

 遺跡での生活(?)はトロールとの戦い程、過激にはならなかった。


 まず、打倒したトロールは一纏めにして遺跡の外へ積んで置いた。これはトロールの匂いがすれば弱い魔物や動物は近寄って来ないと考えたからだ。だが、それが逆の効果を現した。

 首を刎ねたのだから血の匂いが漂うのは当然だろう。いくら処理をしたとしても少しは臭う。臭いに引かれた魔狼が現れた。

 トロールが縄張りを主張していた時には魔狼は敵わぬとみて何処かへ姿を消していた。多少食料が取れなくてもトロールに捕食されて群れを全滅されるよりはよっぽどマシだと考えたのだろう。

 その魔狼がトロールの流した血に引かれて戻って来たのだ。


 転がったトロールを食い散らかして骨のみにすると他に食料を探す。

 当然、遺跡を仮の住居と定めた僕たちの臭いへ引かれて近づいてくる。

 水浴びすらできないこの季節、身体を拭くだけでは体臭がきつくなる。女性であってもね。男女区別も無くってのはこんな時に良い言い訳かもしれない。


 それはともかく、魔狼は僕たちに狙いを定める。

 だけど槍持ちの兵士もまだ健在だったし、魔法兵も二名、ヴィリディスも入れれば三名で対処が可能。さらにフラウの弓は魔狼に効果的に働いた。

 数匹を倒され敵わぬと見た魔狼は尻尾を巻いて逃げ帰り、それ以降僕たちの前に現れる事は無かった。


 魔狼以外に魔物や動物を見たかと言えば、全く見なかった。

 冬に向かっていたのも理由なのかもしれない。春になったら勢力図が変わる可能性があるな。


 そして、本命と言える遺跡調査だけど、僕には何の情報も教えて貰えなかった。

 たぶんフラウも同じだろうね。知らなければ口にすることも無いしね。

 僕とフラウの違いと言えば、彼女が遺跡調査に感心を持っていない事かな?僕もそこまで持っていないから今のところ余り不満は無いけどね。


 とは言いながらも、教授とヴィリディスが度々、内緒話をしているのを見る機会があると、無かった不満が本当だったのか、と疑問が湧いてくる。

 少しでも教えてくれればよかったのに、と……。




「コーネリアス、少しいいか?」

「どうした?魔物でも見つけたか」


 今はサラゴナへの帰路。殿を僕たち三人が受け持っている。

 僕たちの少し前には数人の剣と盾持ちの兵士が控え、その前に教授とその助手。最前列に槍持ちの兵士たち。そんな隊列で進んでいる。


 その最後尾で僕はヴィリディスに肩を叩かれ、列から遅れるように促されたのだ。

 サラゴナへの道も半分を過ぎ、一日半でたどり着けるだろう。

 その時に話しかけられたのだから何か外から脅威が近づいてきているのではないかと感じ取るのも当然かもしれない。

 フラウが反応していないのが気になると言えば気になるが。


「話しておかなければならん事がある。遅れてすまんな」

「何か理由があったのか?知らなくても僕には関係ないだろうから何とも思ってないぞ」

「そうか……」


 教授とヴィリディスの二人でこそこそと内緒話をしていたのは理由があったらしい。

 でその内容に耳を傾けてみるのだが……。


「大きな声では言えんが、あの助手連中は教会の息が掛かっている連中らしい」

「えっ!」

「声が大きい!」


 これが驚かずにいられるだろうか?

 いや、いない。

 いないと言って!


 確かに教会が関わっているとなれば、むやみやたらと知り得た情報を喋る訳にはいかない。光属性と闇属性と言う二つの相反する魔法が存在していると僕たちは知っていて、密かに光属性魔法を使っているかも知れない、と予想しているからだ。

 僕たちのがその秘密を知っているとわかれば、教会がどんな手に出てくるのか予想できない。


 だけど、遺跡調査は教会の使命とも言うべき事業だ。教授に付き添い研究の手伝いをするのは理にかなっている、とも思えなくも無いが?


 疑問だらけになって過熱する頭の中を冷やそうと、僕はぐるぐると頭を回すのだった。

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