-38- トロール狩り10
「コーネリアス、タイミングを見て避けろよ!!」
トロールに向かって駆け出した僕に向かってヴィリディスが叫んできた。トロールにも聞かれたであろうが、人の言葉を理解しない彼等には意味がわからない筈だ。ただ単に叫び声を上げただけと思うかもしれない。それはそれで構わない。
それと同時にヴィリディスの意図を計りかねてしまう。彼の魔法は精度が高く、威力もあり、形勢逆転を狙うには適切なのだが……。
「……わかった!合図をくれ」
僕はいくら考えても判らないのだからその時になって任せればよいだろうと考え、左手を上げて了解だと示した。
流石に二体のトロールを相手にするのは荷が重い。無茶が過ぎると言うべきだ。
剣を振る隙はあるが、いまだに一太刀も浴びせられないのだから。僕が牽制でフラウとヴィリディスが攻撃の主軸となっていると言っても良いだろう。
こんな状況で逆転できるのか?そんな事を思ってしまう。
それでも何とかしようと思ったとき、好機が訪れた。
うまい具合に互いを補完していたトロールの足並みが一瞬、崩れた。それを逃すなどとんでもない。
「伏せろ!!」
ヴィリディスが叫んだ。
え?伏せろ?
何をするつもりなんだ?
そんな事を思いつつ、ちらっと彼を視界の片隅に捉えるとなんと強大な魔法を放とうとしているではないか!
あれを食らったらひとたまりもない。
急いてトロールから飛び退き地面にどさっと伏せる。それと同時にヴィリディスの魔法が放たれた。
”ドカーーーン!”
僕が知るヴィリディスの上位攻撃魔法”爆炎”がトロールとトロールの間で爆発したのだ。
直後、伏せた僕の背中を爆炎で生じた熱風が撫でる。
あのまま突っ立ってたら爆風ではるか遠くに飛ばされていただろう。運が悪ければ何処かに激突し亡き者に……。あぁ、恐ろしい。
「ぼ、僕を殺す気かーーーー!」
だから僕は思わず叫んでいた。
爆風が吹き抜けた後、顔を上げながら。
「その話は後だ。教授、退却を命じてください」
さっきまで剣を向けていたトロールに視線を向ければ、僕たちから遠く離れた場所で仰向けに倒れていた。”爆炎”の爆発と、吹っ飛ばされ地面に激突したダメージが蓄積されているのかうごめくだけで起き上がろうとしない。目の前で”爆炎”の直撃を受ければ、治癒能力を持つトロールであっても撃退できる、そんな事例になるだろう。
「おう!隊長、絶好の機会だ、退却を」
「全員退却!大勢を立て直すぞ」
その言葉を合図にして僕たちは”爆炎”で吹っ飛ばされたトロールの間を抜けてそこから距離を取ることに成功した。
僕たちは周囲を見渡せる場所まで撤退した。
とは言いながら、トロールとの距離はそれ程離れていない。せいぜい二百か三百メートルくらいだろう。
だが、それだけで十分だった、態勢を建て直すには。
三人減ったが、兵士は隊列を組み直し、ポーションを飲んで怪我を癒した。
僕もポーションを飲み、チリチリと刺すような痛みを癒すのだった。
「酷いぞ!あそこで”爆炎”を使うとは思わなかった。危うく死ぬところだった」
「オレはお前が返事を返してきたから理解したと認識したが?」
一息ついたところでヴィリディスに文句を言った。
”爆炎”を食らったら命が危うかったと。
だが、ヴィリディスは僕が手を上げたことで”爆炎”を使う事を了承したと思ったらしい。だからそれ以上は言わなかったのだと。
そう言われてしまえばそれまでだ。
意思疎通が難しいことは理解できる。
再び文句を言おうかと思ったが、トロールが迫って来ていると兵士たちが叫んだので、それ以上は溜息を漏らしただけで言葉を紡ぐことを諦めるのだった。
それにしてもトロール……。諦めないんだな。
向かってくる敵は黒く煤けているのが二体。その他に二体。
合計四体のトロール。
ヴィリディスの”爆炎”を脅威と感じたのか間を開けて向かってくる。
頭が良いのはこれだから嫌なんだよ。
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