-37- トロール狩り9

 一度に三人もの兵士を失った。

 まぎれもない事実だ。

 兵士たちは……、いや、僕も含めてだけど、全員が浮足立った。

 これでは戦いどころではない。


 残りの人数が少なければ建て直すのは容易いだろう。僕たちだけ……だったら。

 でも、先頭を進んでいたのは兵士だった。

 兵士は常に訓練を行い心身ともに鍛えている。

 僕たち冒険者だって鍛えているから同じじゃないか!と思うかもしれないが、決定的に異なる事がある。

 それは冒険者は個人の能力が基礎になっている事。そして、兵士は集団でその実力を発揮する事だ。


 それを踏まえて浮足立った兵士をどうすれば良いか。

 答えは簡単だ。


「一旦下がれ!大勢を立て直す」


 教授が何かを言う前に兵士を率いる隊長が叫んだ。

 兵士を率いる隊長としては当然の命令だろう。僕でもそうする。

 ここで強引に正面突破をしても被害を増やすだけだろうからね。

 それに教授のあたふたした姿を見れば誰だってこれ以上進むには躊躇するはず。

 そう思いながら僕たちはゆっくりと退却するのだが……。


「ダメ!後ろからも現れた」

「何処にいたってんだ?」


 前から現れたトロールを牽制しつつ逃げの態勢に入った僕たちの後方を塞ぐように新たなトロールが現れた。と言いつつも後方のトロールとの距離はまだ十分ある。

 それが一体なら問題ないのだが、僕の見る限りは二体。前に打倒した若い個体とは別の手強い個体。体格だけ見てもそれがわかる。


 そいつらが隊の前方から現れていたら建て直す可能性は十分あった。

 だが、後方から新たな敵が現れたのだから建て直すには無理があるだろう。


「覚悟を決めるか……」


 業物の剣に魔力を通しながら僕はフラウたちよりも前に出る。

 兵士からの援護は何体のトロールと戦っているのかわからない今は期待できそうにない。

 退路を確保する、それを念頭に置き、二体相手にどれだけ踏ん張れるかと溜息を吐くのだった。







 トロールとの戦いは順調に進んでいない。

 明らかに巨体を持つ個体が二体、僕たちの前、退却出来ぬように立ちふさがっている。

 体毛に覆われているが、身体の特徴からすればメスであろう。

 小さな体のオスが三体、それを先に出してきたのだから何となくメスが出てくるだろうとの予感はあった。

 簡単に言えば……。


 ボスのハーレム要員。


 って事だね。

 ボスの性欲はけ口とも取れなくもないかな?


 でもハーレム要員を出して来ていいのか?

 疑問ではあるけど、ボスの庇護下にあり優遇されているとしたら普通なのだろう。

 それに打倒した三体のオスと違って、頭が良い。呆れる位にね。あのオス共は武器として巨木(と言ってもいいだろう)を振り回していた。

 トロールの怪力を以てしても振り回しているよりも、振る舞わされていると表現した方が良かったくらいだ。だから簡単にトロールを倒すことができた。


 それに対し、目の前の二体は丁度良いサイズの木を握っている。棍棒と呼ぶに相応しい大きさの、ね。

 それが何を意味するのか……。


「うわぁっ!あぶねぇっ」


 いくら経験豊富なトロールが棍棒を振り回したとしてもつたない技術では敵になりえない……、のだが、怪力で強引に振り回すことで達人と思えるような反応速度で攻撃してくる。

 危険極まりないとは、目の前のトロールの事を言うのだと肝に銘じるのだった。


 ”ボンッ!”


 トロールとの戦いはどうしても劣勢にならざるを得ない。

 だが、一人で戦っている訳ではない。頼もしい仲間が後ろに控えている。

 今も僕がトロールの一撃を大きく躱した隙を狙ってヴィリディスの”火矢”が飛翔して来た。有難い援護に僕は大勢を建て直す事に成功した。


「はぁはぁ、それにしても戦いにくいな……」


 体力自慢の僕でもトロールを相手にするのは骨が折れる。

 それに疲れもする。

 このままじゃジリ貧になり、トロールの餌食になってしまう。

 後ろでは教授の連れた兵士たちがいまだにトロールと戦っている。

 援護は期待できない。


 ここは一発逆転を狙うべきか迷うところではある。

 危険を冒すべきか……。

 何か良い手が無いものかと焦りを感じ始める。

 手に汗を掻いているのがその証拠だ。

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