-39- トロール狩り11
向かってくる四体のトロール。
こちらも部隊を四つに分けて対応せざるを得ない状況だ。
十八人になった教授の部隊から槍持ち兵士の一人を僕たちに援護としてくれるみたいだ。非常に有難い。
残った十七人、教授は戦力として数えないとして十六人。でも三人は教授の手伝いなのでこれも戦力に数えられない。そうすると十三人。槍持ちが六人と剣盾持ちが四人、魔法兵が二人、最期に隊長が一人。
魔法兵を後方で適宜援護させる布陣にして戦うようだ。
僕達は援護に来た兵士一人とトロールに対峙する。
厳しい戦いになることだけは確実だろう……。
だけど、トロールの様子が可笑しい。
どのトロールもそうなんだけど、何らかの怪我を負っている。
煤けた二体のトロールはその姿がまず可笑しい。
煤けている事が可笑しいのだ。
異常な治癒能力に長けたトロールだからあんな煤けたままである訳ない。多少汚れが残っている程度になっても可笑しくないのだ。
それに他の二体もあちこちから血を流している。
兵士たちが槍を繰り出し血を噴出させたのだろうが、それが治っていない。トロールなのに不思議な光景だ。
最初に襲ってきた小柄な三体のトロールでさえ、肉体を切り裂いても瞬時に血を止めていた。僕が腕を切り落としたトロールなんて、それをくっ付けて何もなかったかのように振る舞ったのだから……。
うん、あの異常な治癒能力がトロールの正常なら、治癒能力を失っているトロールが異常なのだろうな。
なんか、頭がこんがらがるぞ?
異常が正常で、正常が異常?
うん、考えるのを止めよう。
これでトロールを倒す光明が見えたのは確かだな。
だけど、細かな攻撃では埒が明かないだろう。
フラウの弓矢じゃ致命傷を与えられてないからね。うっかりと的を外して目玉から脳へと突き刺さらないとダメだろうな……。
ん?そうしたら一撃で屠れるじゃん。フラウに頑張ってもらうか?
そんな巫山戯た事を考えつつ業物の剣に魔力を通して切っ先をトロールに向ける。
魔力を通し薄く光る刀身を見たトロールが我慢できぬと駆け出して僕に迫る、十数キロもあるだろう棍棒を振りかざしながら。あの棍棒の一撃を受ければ誰であろうと命を散らしてしまうだろう。そんな死に方は御免被りたい。
「でも、それはもう見てるんだ。舐めるなよ!」
トロールが煤ける前に棍棒の一撃はすでに見ていた。だから躱すのも容易い。だから、待ち受けるよりももっといい方法があると直ぐに駆け出して前にした切っ先を横に構える。
”ブンッ!”と振り下ろされる棍棒。僕が
そして、横に構えた剣を一閃。横薙ぎの一撃がトロールの胴体に一本の赤い線を深々と刻んでいた。
トロールが万全の状態だったら、二体で相手をしていたら、僕の一撃をトロールが受ける事は無かっただろう。それだけの強敵が弱体化していたのだから驚くほかない。
腹の切り傷からは真っ赤な鮮血が止めどなく流れ出る。治癒能力がある筈なのに止まる気配はない。とは言え、痛みに強いのか、感じぬのか、トロールの動きが目に見えて悪くなるなんてことはない。
援護に来た槍を振るう兵士を気にする事も無く、僕に全ての殺気を向けてくる。
殺せるはずの相手に手玉に取られたなど許せる筈も無いのだろう。
その殺気も僕には心地よい……かもしれない。
人間から向けられれば躊躇するだろうが、相手は魔物たるトロールだ。
「冷静さを失えば負けるのは勝敗の常なのだよ、トロール!しかも、僕だけが戦っている訳ではないからね」
僕の周りにはフラウがいる。ヴィリディスもいる。そして、援護に来てくれた兵士がいる。僕だけに殺気を向けて良いのか?
そう思いながら視界の隅から飛んでくる二つの物体の行く先を眺めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます