-32- トロール狩り4

 トロールが優雅に自らの腕をくっ付けた。鈍い動作が優雅に映っただけ。

 その能力があるから僕の斬撃を食らったんだろう。簡単に治るって。


 横に視線を向ければ教授が連れてきた兵士たちも同じように腕を切り落としてはくっ付けられ驚愕の表情を浮かべている。

 このトロール、頭がいいぞ。


 僕が接近戦しかしないのをわかっていて攻撃されているんだから。

 もっと連携を重視してヴィリディスの援護を十全に得られていたらトロールたちの戦いも変わってくるだろう。

 もしかしたら……。

 いや、その考えは今は捨てておこう。

 今は切り刻んで傷口を焼くしかないだろう。


「もう一度やる!魔法を用意しておいてくれ」


 ちらりとヴィリディスに視線を向ける。

 彼は頷きだけで返してきた。


 再びトロールに切っ先を向ける。

 大木を掴み肩に担いで何とも嫌らしい笑みを浮かべている。それが気に食わない。

 そこそこの知能があるからだろう、僕らを嬲り殺す事を思い描いているのかもしれない。

 あの大木で殴られれば嬲り殺されるよりも挽肉ミンチにされてしまうだろう。

 そして、アイツらの食料に?

 そんな事はさせぬ。


 僕は地を蹴ってトロールとの距離を詰める。

 ほんの少し身体強化魔法を使い懐に飛び込もうとした。

 真上から振り下ろされる大木を躱し、腹を切り裂いて無防備な四肢の何処かへ一撃を入れようと考えた。


 だが、僕の考えは甘かった。

 さっき、トロールは頭がいいと思った、僕が。それが全く生かされていなかった。

 振り下ろした大木を腕力に任せて横薙ぎに振り回してきたのだ。


「うわっ!危ねぇ」


 すんでの所でゴロゴロと転がって躱す。

 僕のすぐ上を大木が通過して行った。

 ちょっと遅かったら確実に挽肉ミンチだよ。

 ちがうな、ゴムまりみたいに打たれていたかもしれない。


 直ぐに立ち上がり再びトロールと距離を取る。

 転がった時に土が口に入ったらしい。じゃりじゃりする。


「もう一度だ!」


 再び大木を担いだトロールに向かう。

 あれだけの大木だ。振り回せれば強力な打撃武器となる。

 だけど、肩に担いだ大木を武器として扱うには、振り下ろすか薙ぎ払うか、二つに一つしかない。

 振り下ろすか、薙ぎ払うか、確率は二分の一。


 でもどちらにも対応できるように動けば問題ない。

 そんな事を考えつつ近づくと、トロールの顔が歪んでゆく。アレは余裕が無い証拠だ。僕が一撃、二撃と避けたからね。

 ゴブリンや魔狼、魔猪なら一撃であの世行きだが僕たちは違う、躱せるのだから。

 トロールは知能が高いとは言ってもそんなもんだ。


 振り下ろされる大木を悠々と躱し、トロールの太腿を一閃する。これだけの力を込めてやればトロールと言えども両断できるだろう。そして、ヴィリディスの火魔法で傷口を焼き、後は首を切り落として止めをさす。

 完璧だ。


「取ったぁ!」


 僕の一撃がトロールの太腿に吸い込まれる。

 手ごたえ十分、致命傷を与えたはず……だ?


 でもそうはならなかった。

 僕が一閃した剣、本来ならトロールの足を切り落とし、そして、トロールがバランスを崩して地に伏す筈だった。


 それが太腿の真ん中辺りで刃が止まってしまった。


「ぬ、抜けねぇ!」


 切り落とす事も出来ず、そして、剣を引き抜く事も出来ない。

 ゴブリンだったら心臓を突き刺してもそれ程苦労せずに抜けるのだが。


 今度は僕が焦る番になってしまった。

 その僕を見下ろすトロール。ニヤリと嫌味な笑顔を作り僕に向ける。


「やべっ!」


 大木を手放したトロールの右ストレートが放たれる。

 僕は剣を手放し後ろへ飛び退くとと同時に顔面の前で腕をクロスして攻撃を防ぐ。

 ”どかっ!”と腕がきしむ音が聞こえるとともに僕は吹き飛ばされた。


 幸いなことに飛ばされた場所には立ち木など障害物は無かった。

 腕はジンジンと痛みを覚えているが、他は大丈夫みたいだ。少し背中を打ったみたいだけど。骨は折れていないだろうが……。


 やりにくい。

 どうやってトロールを料理するか、攻撃の通じぬ化け物に思わず溜息を漏らすのだった。

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